短編集 くらしの中で
その二
一方うれしくなる言葉を返してくる者もいる。大体大人の精神を持ち合わせていれば人を傷つけるような言葉は吐かないものだ。
中には優しい言葉で対応してくれる人もいるが、他人の場合はそれが本心かどうかはわからない。でも言われたほうはやはりうれしくてまた話したいと思う。
私が一番うれしく思うのは、辛口の娘が可愛らしくリアクションしたとき。ほのぼのとしていつまでも心がぽかぽかと温かいのだ。
大袈裟なことではないのだけれど、茶目っ気もある娘の言葉はうれしくもあり面白くもある。
この間メールが再々来てチャットをしていた時のこと、色々な話で盛り上がったのだが、私が畑で作っている少しの野菜と鈴なりのポンカンの写真を送った。
畑には今まで一杯の小菊も咲いていたのを知っているし、年中花づくりをしていることも熟知だ。
突然「広い屋敷で好きな庭づくりして、幸せね、ちゅーちゃんは」と書いてきた。ちゅーちゃんというのはニックネームとしてつけられた名前だ。
自分の現況を幸せとは思っていなくてむしろ寂しい環境と捉えていたので、娘の言葉で、私は幸せなのかと改めて考えた。
そして、話題を変えて、月の撮影をするので毎晩空をみて月の形を見ていると書いたら、「かぐや姫みたいやな」と書いてきた。私は「自分が月に帰りたいとは思わんけどな」とリコメした。
娘から何か言ってくると、私は必ず相手がほっとなるような言葉を選んで返事をしてきた。今回の、ちゅーちゃんは幸せね、と言ってきたのに対して「しょっちゅう写メールをくれる娘もいるしな」と返した。
お互いが自分の愉しみにしていることを書いてほっこりする時間を過ごした日であった。今私は友達が癌になったとの知らせを受けてとても落ち込んでいたので、娘との会話は少し癒された。
成長過程でも、離婚後も色々苦労をかけられた娘だったけれど、こういう会話ができるようになったことはうれしい。
誰とも会わないで過ごす日も多いが、遠くから強い糸で支えられているような気がして私は安定している。14年間都会の娘の家に通って一緒に孫育てをした甲斐があったとしみじみ思う。
完
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子