短編集 くらしの中で
物は言いよう その一
言葉一つで傷つけられることもあり、うれしくなることもある。
概してこれまで傷つけられたのは同年代の友達であるが、逆に話して和む友もいる。
これは相手の問題なのでそのことに執着をしない方が良いとは思っても、刺さっていつまでも覚えている言葉があってどうしようもないのである。
自分にとって一番刺さった言葉は「哀れな人」とか「可哀想な人」という言葉だった。後者の場合、何故彼女はいつも私のことを「可哀想な人と思っている」と言ったのか、未だにわからないのだが張本人は死んでしまった。
「哀れと思う」と言われたのは、六年も遅れて入学した大学の同級生が腹を立てて言った言葉だ。私自身引け目を感じていたので、その言葉はひどく胸に刺さった。その友達も年下ではあったが年がいって私より先に亡くなった。腹立ち紛れで言った言葉だったのだろうが、言われた私はいまだに覚えているのである。
もしかして、自分も人の心を傷つける言葉を吐いてたきたかもしれない。その場で言い返されていたらはっと気が付いて悪かったと思い、傷ついた人も長くは根に持つことはないだろう。
私は何か言われても巧く言い返すことをしなかったので、その傷がなかなか癒えなかったと言えよう。これを執念深いと言われても仕方ない。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子