短編集 くらしの中で
その二
「その一」で書いた82歳の女性のその後について。
翌々日彼女が益々調子が悪いとのことで、朝電話で精神科への付き添いを頼んで来た。11時の予約をしたとのことで10時半に車で10分ほどの病院へ私は同行した。
暫く待合室で待って診察室に呼ばれ、心細いから一緒に入室してほしいとの彼女の頼みで私も診察室へ入り医師とのやりとりを聞いた。結局のところ、意外にも彼女はこれでこの病院は終わりにしますと医師に伝えたので少々驚いた。
彼女は私の主治医で循環器内科へ行くと言うので連れていった。ここでも私も一緒に入室した。彼女は受診して点滴を打ってもらうことになったので、私は彼女の所望のバナナを買いにスーパーへ寄って帰宅した。
彼女は後から自転車で薬を取りに調剤薬局へ行った。
翌日の昼に、私は総菜の天ぷらを作ったので、熱々をパックに入れて持って行ったら、前の日と比べて顔つきが随分良くなっていた。内科で処方された薬が良かったのだと確信した。
私も少し体調が悪かったのでその後は訪問していないが、近所の人の話では話相手をして欲しいと頼まれ暫く部屋に上がって話をしたら気が楽になったと言ったそうだ。
日常的におしゃべりが趣味だといつも言っていた彼女。コロナ禍で人との付き合いもなくなり、することといえば買い物をして食事の支度をし、空いた時間はテレビと新聞を見るだけの生活リズムがこういう結果を招いたのだろう。
老年になるとその「暇」というのが曲者で、認知症や鬱を招く要因となるから怖いことだ。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子