短編集 くらしの中で
飽くなき微笑 その一
年を取るにつれ、苦労の経験を経て寛容になるものだ。
大抵のことは受け入れ、激怒するほどの怒りも許容に替えて元通りの対応をする。
それが自分の心の安定ともなるからだ。
外から見れば何ら変わっていない様子を感じてどこまでも突っ込める鈍感な奴と錯覚をする。
あり得ないほどプライバシーに侵入する言動をし始める。
友人間、子弟間で起こり得る状況である。
慣れ親しんでいるとの錯覚から不躾な、或る時は無礼な言葉を惜しみなく放ち許されると思っている。
こちらの対応としては落ち込んでいるわけではなく虎視眈々と策を練る。
それには時間がかかる。
早くて二三か月、時には二三年かかる時もある。
相手がその言葉を忘れるほどの間隔だ。
かなり近距離だった相互関係からそろりそろりとあとずさりをして最後の結末を微笑んで告知する。
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子