短編集 くらしの中で
その三
30代のころから、病気をしていると聞けば友人におかずを作って届けたりしていたが、家庭に恵まれている人にとっては私がしたことをそれほど有難くは思わなかったようだ。
シニアになってからもそういう私のすることを喜ぶ人ばかりではなかった。
大勢の家族や親族に囲まれて暮らしている人が多いので、私が心を寄せて気遣うこともないのではないかと最近思うようになった。
私としては優しいのとはちがって、人のことを気遣って何かをしてあげようと思うとき、自分が活き活きしているのを感じるからそうすることが自分の活力になっているのかもしれない。
わざわざこちらから余計なことはせず、頼まれたことだけしたら良いと人は忠告する。
現在うつになりかけている仲間がいるが、彼女には姉妹がいてそこに身をよせているので、仲間内でその人に心を寄せる人はいないようだ。
もし私が必要ならできることはしてあげたいと思っているが、先のわからない病気になっているその人のことを思うと悲しい。
彼女から、離婚をし子育てをしながら必死で働いたからなぁという話を聞くと、自分が母親や夫に横着な態度をしながらのうのうと子育てをしてきたことが思い出されて、彼女は子供も巣立ちお金にも不自由はしていないけれど、何となく私まで寂しい気がしてならない。
完
作品名:短編集 くらしの中で 作家名:笹峰霧子