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光は空と地上に輝く(3)結

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運命
~その日から一五日後~

起きてからずっと流架のお姉さんMIAが遺した本を読んでいた。流架の本好きはお姉さんの影響なのか、この本は流架の趣味に似ていた。私はそんな本を、流架と、一度も会ったことのない流架のお姉さんと、三人で読んでいる気分になった。この本を巡った多くの想いを象徴しているこの本。直樹にとってこの本は罪悪感を感じさせるもので、流架にとってこれはお姉さんとの繋がりのひとつ。そして私にとってこれは姉の死を悲しむ流架のありのままの姿を思い起こさせるものだった。
多くの想いを感じながら読み進め、あとがきのページを開いたとき、突然音楽が流れた。
遥 「香歩、今すぐ下に降りてきて‼」
遥からLINEが来た。「!」の多さから何かあったのかもと思って、私はすぐに下に降りた。そんな不安をよそに、下に着いた時、そこには笑顔の遥と穏やかな表情の直樹がいた。
「どーしたの?ふたり揃って」
「あれ?香歩には連絡来てないの?」
「連絡?遥からしか来てないけど…なんで?」
「なぁんだ、知らないのかー」
遥が言うと、私は携帯を見た。電源を切っていた時にちょうど留守電が入っていた。かけなおそうとすると同時に私の携帯が鳴った。流架のお母さんからの電話だった。
「もしもし。」
「香歩ちゃん!電話したんだよ。流架、目覚ましたよ!電話でなかったから先にふたりに流架のLINEで伝えて、香歩ちゃんには電話でちゃんと言おうと思って。早く来てあげて」
 ふたりを見ると、理解したらしく、歓喜の笑みを返してくれた。電話を切った私はふたりに待ってるよう言ってからすぐに部屋に戻り着替えた。いつもより少しおしゃれをして、そして三人で流架のもとへ向かった。
「まだ五個全部終わってないのに助かるなんて、夢間違ってたのかな?」
「そんなのどうでもいいじゃーん!目覚ましたんだからさ!」
「助かって良かった。本当にそう思うよ。香歩の努力の賜物かな。」
「直樹、違うよ。「皆の」だよ。ふたりとも手伝ってくれてホントにありがと!」
「流架を助けたかっただけだし、お礼なんていいってー!」
「うん。目を覚まして本当に良かった」
 三人で盛り上がっているうちに、私たちは流架がいる大病院に着いた。エレベーターに乗って上に行く。そして、流架の部屋の前に着いた。三人して喜びと緊張でテンションがおかしくなっていた。三人で一斉に個室のドアを開けた。
「流架!」
 そこには、いつもの笑顔で笑いかけてくる流架がいる。差し込んでくる太陽が流架の目覚めを思い知らせる。この一五日間、ずっと待ち望んだこの瞬間。たまらなく嬉しく、たまらなく幸せ。ここまで遠かった。私を変えてくれた三人と私、四人がやっと揃った。また楽しい、当たり前の日々が始まる。四人で明日を迎えられる何気ない日々が。
 そのはずだった。それなのに…。
 私たちは次の瞬間、凍りついた。
 流架は…、
 「あの、君たちは、誰?」
 記憶を失っていた。
半信半疑だった。本当に記憶がないのか。それは一時的なもので、きっとすぐに思い出す。そう自分を納得させた。
 それからしばらく立ち尽くしていた私たちの横を通りすぎて、流架はどこかへ行ってしまった。  
その瞬間、流架の中にもう私たちは存在していないという現実を突きつけられた。流架のお母さんの言葉が更に追い討ちをかけた。
「さっき目を覚ました時、すぐに私のことは分かったのに…。」
 流架の記憶から、私たちの記憶だけが消え去った。ふたりの頬を、雫が次々と伝っていた。けれど私は、ショックで自分が泣いたのかすら分からなかった。立つので精一杯だった。病院を出て、帰りのバスに乗っている間は、生きた心地がしなかった。ふたりが目を赤くしてなにか話しかけてくれていたけれど、そのどれも耳に入ってこなかった。家に着いてすぐに、ママの言うことに耳も貸さず部屋へ向かった。真っ先に布団にくるまった。

~長旅一日目~

泣き続け、流架との日々を思い返し、とうとう一睡もせずに夜が明けた。ベッドから立ち上がって壁に手を当てそれを支えにソファに辿り着いた。かなりの圧がかかったのか、手に力が入らなかった。体にも力が入らず、ソファに座っているのでやっとだった。
「おはよう」
 そう言って隣に座ったママに肩を抱き寄せられた。残っていたわずかな力も抜けまた泣いた。
ソファに横になっていた。いつの間にか毛布までかぶって寝ていた。それから夜までソファの上でぼーっとして、壁伝いにベッドに向かい寝た。

     ~長旅二日目~

起きてからずっと携帯を見つめた。流架と撮った写真、LINEのトークをずっと見た。一日のうちにやったことはそれだけ。それでも心は大分落ち着いてきた。ふたりはどうしているか心配しつつ寝た。

     ~長旅三日目~

昨日のように携帯を見ていた時、ふたりが家に来た。いつもなら一緒にいたいと思えるのに、今はよくわからない。少しは落ち着いたけれど、一緒にいればまた泣いてしまう。でも一緒にいないとそれはそれで泣きそうになる。私は玄関に向かって頼りなく歩いた。扉を開けたのが私だと分かった途端、遥が抱きついてきた。遥は私よりも目が赤かった。

「香歩~!」
「遥!」
私たちが離れてから直樹が元気のない声で言った。
「ふたりとも元気そうで良かった。」
「まぁなんとかね」
「香歩も直樹もすごいね。私毎日泣いてたよ。さっきだって香歩が死にそうな顔してなくて安心してまた泣いちゃったし。」
「遥ありがとね。あ、直樹も」
 そして、ふたりを部屋にあげた。この三日間どうしていたか話した。遥は、私と同じで一晩中泣き続けた。次の日は何も考えたくなくて一五時間ずっと寝て、直樹からのLINEを見て私の家に来る途中にも泣いたらしい。よくそんなに寝られるなと思ったけどあえて触れずにスルーした。直樹は、それこそ最初は何もやる気が起きなかったけれど、次第に私たちふたりを心配して遥にLINEをしてここに来たそうだ。そして、流架の記憶を取り戻せないかと直樹が言った時、二つの考えをふたりに言った。携帯を眺めていた時に思い付き、三人でやろうと決めていた考えを。
「流架の記憶を取り戻せるんだとしたら、その方法は二つしかないと思う。」
「その二つって?」
「一つ目は、遥の夢。五つやれば助かるって言ったでしょ?でもまだ三つしか終わってない。ならあと二つやれば…。」
「ちょっと待ってよ。もしそうなら、流架の記憶から私たちが消えることは決まってたってこと?」
「まぁそうなるだろうね。香歩が言っている通りなら。それで二つ目は?」
「二つ目は、遥の真似をすること。遥が翔のふりしたことで私は翔の記憶を取り戻せた。だから、私たちが誰かになりすまして流架が記憶を取り戻すのを待つ。」
「翔になりすましていたのは遥だったの!?あー頭がついていかない。まあ、とりあえず頭の整理は後で一人でやるとして、どっちにしろ問題があるね。一つ目なら流架の運命が決まっていたと信じないといけない。二つ目なら誰になりすますべきか分からない。」
「それならお姉ちゃんになりすますのは?」
「お姉ちゃんの記憶はあるから無理だよ、たぶん」