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光は空と地上に輝く(2)

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そう願っていた時、遥が話しかけてきた。
「ねぇ香歩、直樹変じゃない?」
 言われて気づいた。さっきからほとんど喋っていなかった。病室でこの本を見つけてからずっと一言も喋ろうとしなかった。それどころかいつもより顔が暗い。
「どうかした?やっぱりさっきの気にしてる?」
 私の言葉になにも反応しない。それどころか一点を見つめて固まっている。いつもはすぐに反応するのに反応しないなんてどう考えてもおかしすぎる。もう一度話しかけるとやっと反応してくれた。
「ごめん。」
「どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫。ぼーっとしてただけ。何も無かったしそろそろ帰るよ。ふたりはまだいるんだよね?じゃあまた。」
 引き止めようとする私たちを背に直樹は颯爽と帰っていった。私たちは直樹が心配で、理由を知るためにつけていくことにした。
直樹はバスにも乗らず、イヤホンをしながら歩いていく。高一の頃の私みたいに。
「どこ向かってるんだろ」
「こっちって家とは真逆だよね?」
 住宅街をぬけて街中に出た。映画館、ボウリング場、ゲームセンター、若者が集う場所には目もくれずひたすら歩く。遂には街をぬけた。それから一〇分ほど歩いて、直樹の足が止まった。私たちは目を丸くした。直樹は病院へ入っていった。
「ここって、聞くまでもないけど、病院だよね?」
「うん。しかも私が入院してた病院。」
そこは紛れもなく、私が事故に遭って怪我をした時に入院していたところだった。
「中入る?」
「入ってみよう」
 中に入った私たちは直樹がエレベーターに乗るのを見た。エレベーターは七階でとまった。私たちもエレベーターに乗って七階へ向かった。エレベーターから降りると同時に直樹がある部屋から出てきた。車イスを押しながら。隠れようとしたけれど、もう遅かった。直樹は細い目を丸くして立ち尽くしていた。
「香歩、それに遥まで、どうして。」
「心配でつけたの。今日の直樹おかしかったから。」
 私よりも先に遥が答えていた。私たちは全員、全く状況を読み込めずにいた。最初に口を開いたのは直樹だった。
「とりあえず部屋に入って。話はそれから。いいよね?」
車イスの女性は、「いいよね?」という言葉に頷いた。部屋に入ると女性はベッドに横になり、直樹はベッドの横に座った。私たちも椅子に座った。さすがに少し距離をとって。
「この人たちって直樹が言ってたあのふたり?」
「そうだよ。」
「ということはつまり…」
「そう。流架がつなぎとめてくれた僕の大切な友達だよ。」
ふたりが話すのを私たちは黙って聞いていた。というか言葉が出なかった。まだ混乱している。それに救ったって何?私はとりあえず1番の疑問をぶつけた。
「あのさ、その…、どういう関係?」
直樹の答えで私の頭は余計に混乱した。
「この人は、野田奈津美、僕の姉。病気で入院してるんだ」
「え、お姉ちゃんいるって言ってたっけ?」
「いや、言ってない。あえて言わなかった。言ったらもう友達でいれなくなる。もし友達のままいれたとしても、気まずすぎる。そう思ったから。でも、この際だから、ばれたから、明かすよ、全部、何もかも。」
直樹はなぜか泣きそうな顔をしていた。友達でいられなくなるほどの秘密なんてない、そう思った。すると、直樹の様子を見てお姉さんが言った。
「直樹、いいよ、私が言うから。」
「ふたりにお願いがあるの。この話を聞いた後も直樹と友達でいてほしい。」
私たちは、戸惑いつつも頷いた。
「それじゃあ、直樹が言ってるその秘密っていうやつを教えるね。」
その秘密は私の予想よりも何倍もショッキングなものだった。

「私が大学三年の時、直樹は中二の時かな、私の友達が冬道で転んで怪我したって連絡があった。その友達とは姉弟そろって仲が良かったから、その友達はかすり傷程度で何ともなかったんだけど一応入院していたから、友達のお見舞いに行こうとした。だけどその途中で直樹と喧嘩して別れた。私は直樹を追いかけたんだけど、そのせいで直樹が赤信号を走って渡ろうとした。もちろん、車は走ってる。私は怖くて動けなかった。そのとき、ひかれそうになった直樹を助けようと大学生くらいの女性が走っていった。直樹は助かったけど、その女性は車とぶつかった。」
お姉さんが涙を流し始めた。
「すぐに警察と救急車が来て、女性は救急車で運ばれていった。何日か経ってから警察に聞きに行った。女性はどうなったか。もちろん最初は教えてくれなかった。でも女性の両親がちょうど来て、女性の父親が教えてくれた。私は殴られるんじゃないかと思った。私が喧嘩しなければ、女性は死なずに済んだんだから。でも、あの子はそういう子だって言って、直樹には今は教えなくて良いから、怪我が治ったら教えて線香をあげに来てほしいと言った。そして、直樹が退院したときに女性が亡くなったと伝えて、約束通り線香をあげに行った。それがその事故のすべて。1番の秘密はここから。」
お姉さんは私たちの目を見て言った。
「その女性は、流架くんのお姉さん、美愛さん。そして私たちは、流架くんにとって、姉を死に追いやった張本人。」
直樹はそれまではベッドに顔を伏せていた。でも、顔を上げて私たちに言った。
「ここからは僕が言うよ。お姉ちゃんは知らないことだから。僕は流架がその女性の弟だと知らず、流架も、高校生になっても、姉の死の真相は知らなかった。でも高二になるときに転校してきて、偶然クラスに僕がいることを何週間かしてから知った流架の両親は、流架に真相を話したらしい。僕の名前は伏せて。その時には僕はもう流架と、遥と、香歩、三人と仲良くなってた。でも、僕だと言った。流架になら殴られても構わなかった。でも流架は、『恨まないよ。お姉ちゃんが命がけで助けたのが直樹で良かった。真面目で人を思いやってくれる、いい人で良かった。ふたりには秘密にしておこう。ふたりが知ったらどうなるかわからないから。四人で仲良くしたいから。』って涙ぐみながら言ったんだ。そして、この秘密を守ること、つまり、嘘をつき続けることは、流架の願いだった。そして、今になって今度は流架が事故に遭って意識がないって連絡が来た。胸が締め付けられた。流架はお姉さんのもとに、空に行こうとしてると思った。そしたら僕は香歩と遥から大事な友達を奪うことになる。そして、昨日病室に行って見つけてしまったあの本。それは、流架のお姉ちゃんが残した特別な小説。世界に一つしかない、MIAの未発売の小説。つまり、流架は高二になってから毎日、『お姉ちゃん』とお姉ちゃんを殺したも同然の人間と一緒にいたんだ。それを考えたら、つけられてるのにも気づかずここに来ていた。そして、僕は今流架と約束したのに秘密を打ち明けた。もう友達じゃいられない。僕は…」
そしてまたベッドに伏せた。すると遥が泣きながら言った。
「直樹。私はそれでも直樹と友達でいるよ!流架だってそう願ったんでしょ!私は直樹をこんなことで嫌ったりしない!ね?香歩?」
私も泣きながら言った。
「うん!友達でいるに決まってるよ!だから直樹、もう自分を責めないで」
「ふたりとも…。ありがとう」
そして、全員が泣き止んだところで、私たち三人は目を赤くしながら誓った。ずっと友達だと。
作品名:光は空と地上に輝く(2) 作家名:MASA