君は愛しのバニーちゃん
ついに、ゴールイン!?(仮)
「……瑛斗先生。さっきは寝ちゃって、ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。遠出して、疲れちゃったもんね」
(俺こそ……っ。ヘタレでごめんねっ! 次こそは……っ絶対に、キメるから……っ!!!)
二人並んで住宅街を歩く道すがら、チラリと隣りを見れば、ほんのりと頬を赤く染めた美兎ちゃんが小さく息を吐いた。
「また、『パンパン』見に行きたいなぁ……」
(……えっ?!! パ……ッ、パパパッ、パンパン、したい……っっ?!!)
その素敵な脳内変換に、思わず昇天しかけて足元から崩れ落ちそうになる。
(……っい、いや……。落ちつけ、俺! 今のは、そーゆー意味じゃないだろっ!)
「……っ美兎ちゃん。また今度、パンパンし……っ、見に行こうね」
「……本当っ?!」
「うん、俺でよければ。また今度……二人で一緒に、行(イ)こうね」
「わぁ~いっ! 楽しみっ!」
無邪気な笑顔を見せながら、それはそれは嬉しそうに喜ぶ美兎ちゃん。
(なんてっ、スケベなんだっ! そんな悪い子には、お仕置きしちゃうゾ……ッ♡)
ピンク一色な妄想に一人脳内で酔いしれると、それはそれはとんでもなくスケベな笑顔を浮かべて鼻の下を伸ばす。
「今度は、うさぎちゃんも抱っこしようねっ?」
「えっ……?」
「瑛斗先生、好きなんでしょ?」
コテンと小首を傾げて微笑む美兎ちゃんの姿が可愛すぎて、その衝撃にフラリとよろめくと危うく再び昇天しかける。
(ウグッ……! ハァハァハァ……。お、俺の……可愛い、うさぎちゃん……っ!!!)
なんとか必死に堪えた俺は、息も絶え絶えに美兎ちゃんに向かって勢いよく口を開いた。
「……すっ、すすす、好きっ!!! 大好きっ!!! この世で一番、愛してるっ!!!」
(な、なんで……俺が好きなこと、知ってんの?!! ……そっ、そそそそ、それよりっ!! 抱っこしていいって……マジかっ?!!!!)
白塗りの可愛らしい家の前でピタリと足を止めると、期待に膨らむ瞳で美兎ちゃんを見つめる。
最寄り駅から徒歩十分という距離は、思った以上に短く。どうやら、いつの間にか美兎ちゃんの家へと着いてしまったらしい。
(抱っこって……!! それって、今すぐしちゃダメ?!!!)
「そんなに好きなんだね。……フワフワしてて、可愛いもんねっ」
クスリと微笑む美兎ちゃんを前に、血走った瞳でロックオンすると……。荒い鼻息とともにコクリと小さく喉を鳴らし、にじりと歩み寄る。
(……っう、うん。フワフワしてて……い、今すぐにでもっ、食べちゃいたいぐらい……とんでもなく可愛い……っ♡)
「今日は、モルモットしか抱っこできなかったから……残念だったね」
(じゃあ、今からでも……っ!!!!)
「今度行った時は、ミトもうさぎちゃん抱っこしたいな~っ」
(今度と言わずに、今すぐにでも……っ!!!! …………って。あ、あれ……?)
チラリと美兎ちゃんの手元に視線を移すと、そこには今日撮ったばかりのモフモフの毛玉が映し出された携帯があって……。
それを見て、幸せそうにニコニコと微笑んでいる美兎ちゃんがいる。
(あっ……。え……? もしかして、美兎ちゃんの言ってる『うさぎちゃん』て……。あの、ピョンピョンと跳ねる、毛玉の方……?)
とんでもない勘違いにガックリと項垂れると、そのあまりのショックさから、静かに一筋の涙を流す。
ポタリと地面へ落ちて吸収された俺の涙は、人知れず、儚く消えていった。
それはまさに、無残に散っていった、今の俺の姿のように。
(ううぅっ。そりゃないぜ……っ)
一呼吸置いて気を取り直すと、ゆっくりと顔を上げて前を見る。
するとそこには、相変わらず携帯片手に幸せそうに微笑んでいる美兎ちゃんがいてーー。
この笑顔が見れるのなら、俺の受けた心の傷など、どうでもいいことのように思えてくる。
美兎ちゃんさえ笑顔でいてくれるのなら、俺はどうなろうとも、そんなことどうだっていいのだ。
だって現に、君の笑顔を見ているだけで……。
俺はこんなにも、幸せな気持ちになれるんだからーー。
俺はポケットに忍ばせていたキーホルダーを取り出すと、それを美兎ちゃんに向けて差し出した。
実は、美兎ちゃんがトイレに行っている間に、こっそりと内緒で買っておいたうさぎのキーホルダー。
まぁ、美兎ちゃんにあまりにも似ていたから、つい買ってしまった……。なんてことはさておき。
初デートの締め括りに、サプライズは欠かせない。
いくら頭の中がピンク一色だったとはいえ、そのへんはキッチリと抜かりない。
「……はい、これ。今日の(初デート)記念に、美兎ちゃんにあげる」
「……あっ。それ……!」
なにやら、鞄の中身をゴソゴソと漁り始めた美兎ちゃん。
その姿を黙って見守っていると、なんとそこから取り出したのは……。
俺の差し出したうさぎと、色違いのうさぎのキーホルダー。
「……実はね、ミトも買ったの。瑛斗先生にあげようと思って」
「えっ?! ……俺、に?」
「うんっ。今日のお礼に。瑛斗先生、うさぎちゃんが好きみたいだったから……。色違いになっちゃったね」
ほんのりと赤く染まった頬で、恥ずかしそうにクスリと微笑んだ美兎ちゃん。
まさか、二人ともお互いの為に選んだモノが、同じ物だったとは……。
これはもはや、偶然なんて言葉では形容しがたい。
ーーそう。これはまさに、運命っ!
こんなにも俺達の想いは、通じ合っているのだ。
「じゃあ……。交換こ、だね?」
はにかむような笑顔を見せた美兎ちゃんは……。
俺の掌からキーホルダーを取り上げると、代わりに自分が持っていたキーホルダーをそっと置いた。
その行為はまさしくーー
俺がここ最近、ずっと夢見続けていた”アレ”と全く同じ行為で。
ついに夢が叶ったのだと、感動に心が震える。
(あぁ……。どこからともなく、祝福の鐘の音が聴こえてくるーー)
これはまさに、そうーー
新郎新婦の、指輪交換だ♡
(……俺達っ! 結婚、しました……っ♡♡♡♡)
脳内で何度も響き渡る、祝福の鐘の音。
その鐘の音を聴きながら、それはだらしなく鼻の下を伸ばして、とても幸せそうな笑顔を見せる俺は……。
目の前の美兎ちゃんを見つめて、キラリと一雫、歓喜の涙を流した。
(……っ神様、ありがとう!!!! 一生、大切にしますっ♡♡♡♡)
可愛らしく微笑むマイ・ワイフ♡ を前にーー
俺はそう、神に誓ったのだった。
その後、すっかりと幸せ気分に浸ってしまった俺は、どうやって自宅の最寄り駅まで辿り着いたのか……。
その辺の記憶はさっぱりと抜け落ちていたが、そんなこと今はどうだっていい。
買い込んだばかりの結婚情報誌片手に、ルンタッタ・ルンタッタと夕暮れに染まる歩道をスキップする。
感動の涙を大量に流しながらスキップするその姿は、それはとても異様だったようで……。
作品名:君は愛しのバニーちゃん 作家名:邪神 白猫