魔導姫譚ヴァルハラ
二人が話を進めていると、炎麗夜が割り込んできた。ちなみにアカツキは、もうケイの話から興味を失っているようだ。
「さっぱりわからない。二人だけに通じるような話じゃあなくて、おいらにもわかるように話してくれないかい?」
ケイはハッとした。
「あ、ごめんなさい。ええっと、じゃあ〈方舟〉計画について話しますね」
話を戻すことにしたケイ。
「元々火星への移民というか、巨大宇宙船である〈方舟〉は別の目的で造ってたらしいんです。でも〈ノアインパクト〉を察知したセーフィエルって人が、当時の帝都エデンにいた人たちを極秘裏に火星に逃がすことにしたそうです。その中にあたしも含まれてたんです、昏睡状態のまま。そして今では、火星で人類とソエルという方々が繁栄してるらしいです」
「ソエル?」
炎麗夜が尋ねてきた。
「宇宙人だと思ってください。その宇宙人たちのせいで、地球でトキオ聖戦や〈ノアインパクト〉が起こったんですけど、火星では人類と共存しています。地球と月にはそれと違うソエルの勢力がいるせいで、人類はまだ迷惑してるんですけど」
「宇宙人ではないんだけどね」
シキがつぶやいたのをケイは聞き逃さなかった。
「炎麗夜さんにわかりやすいように説明してるんだから、シキは黙ってて」
「ボクの母さんとの繋がりを話してくれてるんだよね?」
「もーすぐ出てくるから我慢して」
「ボクへの態度があからさまに変わったよね?」
「じゃあ話を続けますね」
ケイはあからさまにシキの質問を無視して話を続ける。
「火星にいたあたしなんだけど、事故に遭って脱出ポッドで地球に帰って来ちゃったらいしんだよね。正確には墜ちたって感じなんだけど。それを知ったシオンさんはあたしを助けようとしたんだけど、もう遅くて。えっと、シオンさんはずっと地球にいたんです、地球で火星と秘密裏に連絡を取ってたらしいです。でも敵に捕まって〈デーモン〉の元にされちゃって」
「〈デーモン〉に元にされる?」
炎麗夜が尋ねてきた。
シキとマダム・ヴィーとの会話で過去に説明されたが、もちろん炎麗夜はその話を聞いていない。
難しい顔をしたケイ。
「そこは置いといてもらっていいですか。とにかくあたしは地球に落ちて来ちゃって、死にそうになってたところに、シオンさんが駆けつけて、あたしを助けるために、シオンさんもだいぶ危ない状態だったんですけど、二人で合体して〈デーモン〉になることで、生き延びることができたんです」
「はぁ?」
炎麗夜はぜんぜん理解できていないようだ。ケイも整理し切れておらず、説明が不十分でわかりにくいのも原因だろう。それでもシキは理解したようだ。
「話してくれてありがとう。母がどういう形であれ、生きていることがわかってよかったよ」
「おいらはさっぱり」
頭痛でも起こしたように顔をしかめる炎麗夜。
ケイはその顔を見て頭を下げた。
「ごめんなさい炎麗夜さん。また今度わかりやすいように話しますから」
「おいらは悟ったよ」
「なにをですか?」
「乳友には説明なんて不要ってことがさ。おいらは心で理解した!」
絶対に理解してない。
それでも炎麗夜が納得しているのならいいだろう。
これでケイと紅華、そしてシオンとの繋がりが説明できた。
三人の繋がりは、なんの因果かさらに広がりを見せ、シキとアカツキがこの場に集った。それはただの偶然か、魂が互いを引き寄せ合ったのかはわからない。
それこそが運命というものだろう。
ケイは三人の顔を順番に見た。
「これからどうする?」
真っ先に答えたのはアカツキだった。
「動けるようになったら、借りを返しに行く」
次に炎麗夜も、
「おいらも端っからそのつもりだよ。あんな塔なんて絶対にへし折ってやるさ!」
最後に残ったシキはケイに見つめられて、大きくうなずいた。
「ボクの使命だからね。人間は人間による人間の道を歩むべきなんだよ」
三人の意見を聞いてケイも同じ気持ちだった。
「もちろんあたしも戦う。前のあたしとは違うから十分戦える。でも……」
ケイが見つめたのはアカツキだった。
「あたしはアカツキと共に戦いたい」
「俺様は貴様らと一緒に戦うつもりはない。ここに連れてきてもらった礼は言うが、ここから先は俺様ひとりで行く」
「あたしと契約して、アカツキ!」
「なに!?」
ケイは〈デーモン〉だった。契約ができるはずだ。
顔を逸らしたアカツキにケイが詰め寄った。
「生身でどうやって戦うの、しかも体中ボロボロなんでしょ。あたしと契約すれば、アカツキは戦える!」
「ひとりでも戦える」
「ウソばっか。だって今までずっと一緒に戦って来たんでしょ、アカツキのパートナーはあたししかいないんだから!」
「あんたは紅華じゃないんだろ」
「でも、紅華さんの魂はちゃんと受け継いでる。それはアカツキが一番わかってるはずでしょ!」
「…………」
アカツキは押し黙った。
そこに横からシキが口を挟んできた。
「アカツキ、どちらにせよキミはすぐには動けない。明日まで考えてみてくれないかな。ボクはキミの新しい刀を用意しよう。それとできるだけの戦いの準備をする。戦いは明日、敵は強い、できるだけの準備をしたい、だからといって悠長にも構えていられないからね。戦いは明日だ」
「明日まで考える必要はない」
そう言ってアカツキはケイの手を握った。
お互いの掌を溶け合うほどに合わせ、絆を確かめるように指と指を固く絡める。
アカツキとケイは同時にうなずいた。
「「〈ファルス〉!」」
同時に声を出した二人が閃光を放った。
シキと炎麗夜に笑顔で見守られ、アカツキとケイは契約を果たした。
すぐにケイはアカツキの服を捲り上げて、その背中をたしかめた。そこに浮かび上がっていた刻印。ケイと同じ場所、同じ形の模様。
アカツキに新たなパートナーが生まれた瞬間だった。
作品名:魔導姫譚ヴァルハラ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)