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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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「その通り、凡庸型は動物の素体と〈アニマ〉に、人間の〈アニマ〉を融合してつくる。さっき向こうにいた猪は、猪が素体となり、どこかの誰かの〈アニマ〉が融合してあるわ。凡庸型までわたくしは関知していないけれど」
「昔からずっとおまえは生命を弄んでいる。ボクはおまえがつくったキメラを何匹も殺してきた」
 話の途中だったが、上空の気配を感じてシキはそれを見た。
 舞い降りてきた三つの凶鳥の影。
 ついにバイブ・カハが到着したのだ。
 マダム・ヴィーは唇を舌で舐めたあと、接吻の音を鳴らした。
「新たなゲストが到着するまでのお持て成し終わりよ。ではご機嫌よう、お人形さん」
 霧のようにマダム・ヴィーが消失した。
 巻き付くものを失った鎖が地面に落ちて音を立てた。
「空間転送の技術まで復活させていたのか……」
 シキはすぐさまケイたちの元へ走った。
 積み上げられた触手の山の中から都智治が這い出してきた。〈ムシャ〉化は解けてしまったようだ。
「胸のない奴にまで私は……ううっ……」
 地を這いつくばる都智治に手を貸す者はいなかった。その場にはバイブ・カハがいるにも関わらず――。
 それにまだ気づいていない都智治は、豊満な胸々を指差して叫ぶ。
「殺せ、バイブ・カハなにをしている! 早くそのおっぱいどもを殺せーッ!」
 バイブ・カハはだれも動かない。
 マッハは冷たい視線を都智治に浴びせた。
「都智治さん、アンタはマダム・ヴィーに捨てられたんだ」
 さらにネヴァンも続いた。
「可哀想なお嬢さんだわ。もう生きている価値もないのね(アタシたちもいつヴィーに捨てられるか、早いうちに先手を打たなくては)」
 都智治は眼を血走らせてモーリアンを睨んだ。
「本当かモーリアン!」
「はい、我々が貴女の命令を聞くことは一切なくなりました」
「キヒャハハハハハ、それならそれでいい。皆殺しだ血祭りだ血の一滴まで搾り尽くしてやる!」
 しかし、もう都智治は戦う力など残っていなかった。
 この場にやってきたシキが囁いた。
「都智治……いや、リリカちゃん。キミは姉を殺してまで都智治の地位を手に入れたけど、すべては儚い悪夢だったんだよ」
 一同に動揺が走った。
 炎麗夜が眼を丸くして声を荒げる。
「都智治が前都知事殺しただって?」
 政府側であるマッハも驚いていた。
「姉殺しまでやったのか。相当なコンプレックスを抱いてたとは聞いてたけどな」
「そういう噂は聞いていたわ。モーリアンお姉様は知っていたのかしら?」
 ネヴァンはそう言ってモーリアンに顔を向けた。
「私は知っていた。それにまつわる真相も……(巨乳狩りがいかにして生まれことになったか)」
 真相とは?
 アカツキから殺気が立ち昇り、切っ先がモーリアンに向けられた。
「巨乳狩りはヒミカ病が原因ではない、そうだなモーリアン!」
「貴公知っているのか!?」
「別の理由があることには気づいていたが、すべてを貴様から聞かせてもらおう」
「それは言えない(姉をコンプレックスから殺し、その殺害を病気に偽装して、コンプレックスの一つであった豊満な胸の女性を皆殺しにするという幼稚な政策)」
 いきなりアカツキがモーリアンに斬りかかった。
 寸前でモーリアンが剣で刀を受けたが、その衝撃で地面に倒されてしまった。
 馬乗りになったアカツキは、刀で剣を押しながら、憎悪を込めて囁いた。
「そのくだらないコンプレックスが本当に原因なのか?」
「なっ……(まさか〈ムゲン〉の能力か!?)」
「自分が貧乳というだけの理由で、巨乳の女たちを殺したというのかッ!!」
 叫び声は全員の耳に届いた。
 もはや隠す理由もなくなった。
 モーリアンは刀ごとアカツキの躰を押し返し、すぐに立ち上がって体勢を整えた。
「そうだ、ヒミカ病など存在しない」
 発症した者は死にたる病。その症状の一つに乳房の肥大があると云う。そして、その代表的な発病者の名前――前都知事であるヒミカこと現都智治のリリカの姉の名から、そう呼ばれるようになったヒミカ病。
 だが、マッハが異議を唱える。
「街で次々と感染者が出て、貧乳だった女が巨乳になっただろ!」
 モーリアンはだれの顔も見ず答える。
「あれは人為的につくられたウィルスを、政府が市販の食品に混ぜて発症した別の病気だ。人から人へと感染するものでもなければ、死に至るものでもなかった」
 今までなにも知らず巨乳狩りに荷担してきたマッハは激怒した。
「アタイは狩りができればそれでよかった。けどな、そんなくだらない理由のために働かされてたと思うと反吐が出る。巨乳なんてもう狩るか!」
 おそらくこの巨乳狩りの理由が公になれば、政府に従わない者も増え、世の中の流れが変わるかも知れない。
 ケイも狩られる立場として一歩前で出た。
「そうですよ、巨乳狩りなんて間違ってるんです。だからもうやめましょう!」
 病気でないとしたら、大きな過ちであったとしか言いようがない。
 炎麗夜が地面に這っている都智治を見下ろした。
「ならやっぱこいつ倒せば巨乳狩りは終わるんだね」
 それにケイは反対する。
「駄目ですよ、そんなことしなくても、みんなが事実を知れば世の中は動きます。もうだれも傷つかなくていいんです!」
「それはどうかな」
 と、シキが言った。
 さらにシキは続ける。
「残念だけどね、ボクはさらにその先の真相を知ってるんだ」
 驚いた視線がシキに集中した。
 病気は嘘だった。
 そして、妹が姉に抱いたコンプレックスが、引き起こした幼稚で乱暴な政策でもないというのか?
 都智治が呻く。
「なんだと……その先の真相だと、ふざけるな。私はおっぱいが憎いだけだ、それ以上でもそれ以下でもない、すべての巨乳どもを根絶やしにしてやる、それのなにが悪い、イヒヒヒヒ!」
「ボクは本当にキミを哀れむよ。巨乳狩りはキミが望んだかもしれない。けどね、巨乳狩りが行われるように、巧みにキミを誘導したのは、マダム・ヴィーだよ」
「奴が私を誘導した? キャハハハハ、ヴィーにどんなメリットがあると言うのだ!」
「巨乳狩りの真の目的は、例えるなら?遺伝子?のようなもの、その?遺伝子?を持つ存在を駆逐するために行われたんだよ」
 シキの言葉にモーリアンは激しく驚いたようだ。
「本当なのか、私たちは都智治のエゴのために働いてはないのだな!(それならば少しは救われる)」
 表向きの真相を知っていたモーリアンは、任務とはいえ思うところがあったのだろう。
 そして、裏にある真相をシキはさらに語る。
「この?遺伝子?を持つ者はヒミカ病と同じで女性に限られ、乳房が大きくなるという特徴がある。ただし、こちらは成長期を過ぎて突然大きくなるということはないんだ。生まれたときから?遺伝子?が組み込まれている。この?遺伝子?を保有しているか調べるためには、膨大な時間をかけて検査が必要で、この?遺伝子?の存在が知られたときには、すでに世界中に保有者が拡散したあとだった。それでも主に保有者がいるのはニホンなんだ。そこでマダム・ヴィーは検査などせず、すべての巨乳を駆逐するべく巨乳狩りを行った。それが真実だよ」
 シキが話し終えた。
 そして、すぐに都智治が立ち上がった。