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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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 ケイはシキの両肩を握った。
「どうしてですかっ!?」
「?彼ら?が意図したものではないからだよ。そのときに発生したエネルギーは、?彼ら?が衝突して生まれたもの――つまり東京を一瞬にして壊滅させた力。同じような現象を起こし、なおかつほかの繊細な条件も必要になってくるだろうね。失敗すれば、この世界にまた〈ノアインパクト〉を引き起こしかねない。引き起こしてもケイちゃんが還れれば?大成功?だけど、ただ世界を崩壊させて終わるのがオチさ。そういった現象を自由に操れるのなら、?彼ら?はそれを起こして自分の世界に還っているさ、この宇宙を崩壊させてもね」
 この世界を滅ぼす。
 還りたいという気持ちは強い。心からそれを切望している。けれど、ケイは再現とはいえ、トキオ聖戦や〈ノアインパクト〉の映像を見たあとでは――。
「この世界を滅ぼしてまで帰りたいとは思いません。でも、本当にムリなんですか?」
「別の方法を考えよう」
「そうですよね、この世界に来た要因の目星はついたんだもんね……なんとかなりますよねっ!」
 ベッドのほうから動く音が聞こえた。
 寝返りを打った炎麗夜。
「あ〜っ、二日酔い……じゃないか……ここは?」
 目覚めた炎麗夜にシキはニッコリ笑顔を浮かべた。
「おはよう、目覚めが悪そうだね」
「最悪さ」
 目つきが悪く顔色も悪い炎麗夜。
 ケイは不思議に思った。
「あたしは普通に起きられましたけど?」
 なぜかこのとき、シキは難しい表情をしていた――ケイの顔を見ながら。
《興味深い情報が見つかったぞ》
 突然シンが言ってきた。
 部屋にいた三人の視線がパソコンに向けられた。
《情報開示は報酬次第だな》
 白い目でケイはパソコン画面を見た。
「このひとお金とか取るんですか?」
《悪いか、もともとは帝都一の情報屋だったんだ。今だって危ない橋を渡って、おまえらと話してやってるんだぞ。報酬くらいもらって当然だ》
 画面の中で顔を膨らませた魔法少女を炎麗夜が指差した。
「だれだいこいつ?」
「この魔都エデンを支えてる超電子頭脳だよ」
 と、シキが答えたが、炎麗夜は口をぽかんと開けてしまった。
「は? なんだいそれ?」
「電気や通信や交通システムに至るまで、この都市は彼によって制御されてるんだ。旧帝都エデンで発掘されたいわゆる〈聖遺物〉だよ。実際は元人間で電子頭脳になった、ただの変態アニメオタクだけどね」
 一部、言葉が強調されていた。
《変態アニメオタクというのは、反論の余地もない誉め言葉だ。加えて言うなら、守備範囲はアニメだけではないぞ。ただし、褒めても情報はただというわけにはいかんな》
 ケイが身を乗り出してパソコン画面に近づいた。
「あたしに関係あることですか? ならあたしがどうにかして報酬を払います!」
 そんなケイをシキは優しく押し退けた。
「なんでも屋シキのボクが払うよ。こいつが好きそうな物なら揃っているからね」
《ほほう、どんな物がある?》
「ついこないだ帝都遺跡で発見された雑誌があるんだ。保存状態はかなりよくて、欠損部分は一つもないよ。たしか雑誌の名前はファミ通だったかな」
《なにィ、あのゲーム雑誌か! だがゲーム雑誌があっても、ゲームがなくてはつまらんな》
「ならフィギュアなんてどうかな。今の時代ではとても貴重な爆乳フィギュアだよ。ちょっと待って、今出すから」
 シキは部屋の片隅に置いてあった箱の中から、そのフィギュアを出して、ウェブカメラに大きく映した。
「忍者っぽいけど、作品まではわからないんだよ」
《それは爆乳ではない、魔乳だ。確か名前はおっぱいみたいなキャラだったと思うぞ。作品名には『魔乳』の文字があったような気がするな》
「雑誌とフィギュアの二つでどうかな?」
《よし、それで手を打とうではないか。ではこれを見せよう》
 パソコン画面に映し出されたケイの顔写真。
 いつ撮られたのだろうか?
 よく見るとそれは報告書の添付写真――いや、カルテだった。
《オレの優秀なコンピューターたちが探してきた。二〇〇一年のカルテだ》
 二〇〇一年?
 空白であるはずの年。
 その可能性にケイは気がついた。
「あたし元の時代に帰れたってことですか!?」
《そういうことになるのかもしれんな。ただ詳しい書類を見ると、少し気になることが書いてある》
「なんですか? もしかして悪い病気とか?」
《発見されたのは一九九九年。所持品の生徒証から名前や住所が判明するが、そのような生徒は在籍しておらず、住所の場所にも別の家族が住んでいたとある。その後の調査で身元を探したが、名乗り出る家族も友人もおらず、身元不明のまま病院でずっと昏睡状態だったそうだ》
「えっ……えっと、え……んっ……どういう……こと?」
 元の世界に帰れたのか?
 そうだとしてもなぜ身元不明なのか?
 なぜ昏睡状態なのか?
《二〇〇一年のその年、新たにもたらされた魔導医学によって、治療の方法が見つかるまで超安静人工冬眠装置によって眠りに就かされたとあるな》
 そんな説明をされても、ケイの頭の中には入ってこない。
「わけわかんない……あたしになにが起きたの?」
《それからまだいくつか記録が残っている。そして、目覚めぬまま〈ノアインパクト〉に突入した。それ以降の記録は残っていない》
 話をされるほどケイは混乱が増すばかりだ。
 炎麗夜も首を傾げてしまっている。
 ただこの中で、シキだけが難しい顔をして、なにかにうなずいた。
「ボクらは根本的な思い違いをしていた可能性があるね」
 それは?
「空間も時間も超えてない。ケイちゃんはずっとスリープ装置で寝ていたんだよ」
 新たな可能性だった。
 過去から未来へ、そして過去ヘ帰り昏睡状態になった――と考えるより、過去に昏睡状態になり、記録の通り人工冬眠状態で現在まで生きていたと考える方が、タイムスリップなどというより、整合性があり合理的だった。
 それはケイにさらなるショックをもたらした。
「じゃあ……帰れないってこと?」
 どこからか?来た?のでなければ、?帰る?ということは存在しない。
 一瞬にしてなにもかも失った。
 ケイが生きたあの世界に置いてきたものを取り戻せないばかりか、この世界での目的も失ってしまった。
 死んだような顔をしたケイは、ふらつく足でそのままベッドに飛び込んだ。
 周りでだれかが声をかけてきているが、今のケイにはなにも届かない。
 まるで世界が黒く塗りつぶされたようだった。