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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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 本当にパソコンだったらしい。
 ケイは混乱してしまった。
「ここ……どこですか?」
「ボクの部屋。マンション……っていってもわからないだろうね。集合住宅の一種なんだけど」
「マンションなら知ってます」
「この街に来たことあるの?」
「え……どこですかここ?」
「魔都エデンだよ」
 来たという実感がない。
 自分の世界に還れたわけではない。それはわかっていたが、こんな文明があったことにケイは驚きを隠せず、口を閉ざしてベッドを背もたれに腰を下ろした。
 〈デーモン〉などの技術は、ケイの知る科学を逸脱するもので、もはやファンタジーの代物だった。それ以外は知っていた文明や科学に劣り、歴史の教科書を見ている気分だった。そう思い描いていた文明が、ここで完全に覆されたのだ。
 この世界にある格差は激しい。ケイのいた世界にも格差があり、国単位など言えば、東京のような文明都市がある中、遠く離れた島のジャングルには原始的な生活をする部族もいる。けれど、このニホンという国は、国内でこれほどまでの格差があるとは――。
 魔都――まさにこの世のものとは思えない都市に相応しい呼び名だ。
 この魔都エデンの技術は人々の生活を豊かにし、それに憧れる人々は多くいるだろう。そして、この技術を狙う者たちは国内のみならず、世界中にいるだろう。
 ニホンの鎖国政策を実感としてケイはうなずけた。
 シキは優しい顔をした。
「まだ寝ていた方がいいよ。本当はまだ目が覚めないはずだったんだけど、おかしいね。無理しないで休んで」
「だいじょぶです。ビックリして目が覚めちゃって、聞きたいこともいっぱいあるし」
「聞きたいこと?」
「炎麗夜さんだけには話たんですけど、じつはあたし……この世界の過去から来たんです、たぶんですけど」
「ん?」
 唐突にこんな話をすれば当然される反応だった。
 ケイは炎麗夜に話した内容と同じ説明をシキに聞かせた。
 ――話を聞き終えたシキは険しい顔をした。
「嘘だとは思わないけど。その現象が起きる可能性よりも、起きたという事実はこの世界を揺るがす事態かも知れない」
 シキの視線はケイから外れていた。
「どーゆーことですか?」
「ごめん、今のは独り言。それでケイちゃんは自分の世界に帰るために、情報収集がしたいってことだよね?」
「はい、あたしがいた時代の一九九九年の七月、この時代で同じときに起きたトキオ聖戦のことをまずは調べたいんですけど。それから、この世界でのその当時の歴史とか文化とか、それ以前の歴史とかもできれば」
「なんでも屋のボクでも、一九九九年にはまだ生まれてないからなぁ。詳しく教えてあげるのは……あっ、いた」
 まさか?いた?とは、?そういう?意味か?
 シキは突然、パソコンに向かってなにやら作業をはじめた。
「ネットで彼を呼び出してみよう」
「ネットってインターネットですか?」
「ケイちゃんの世界にもあったの?」
「えっと、中学のパソコンはできなかったんですけど、高校のパソコンはできるみたいです。まだ授業で使ったことないですけど」
 ケイがいた一九九九年の世界では、まだインターネットの普及率は低くかった。
 パソコンの画面にアニメ調の魔法少女が現れた。
「なんですかこれ?」
「シン君のアバターだよ。彼は大のアニメ好きで、アニメって〈ノアインパクト〉以前の文化の一つね。今は放送局が限られているせいで、そういう娯楽もないんだけど、彼はその文化があった時代から存在しているから」
「あばた……。それよりも、そんな長生きなんですか、その人?」
「生きているという定義には当てはまらないかもしれないし、人間という定義からも外れているような気がするなぁ」
 さっぱりケイには理解できなかった。
《オレはたしかに人間ではないが、元人間だ》
 パソコンのスピーカーから男の声が聞こえてきた。
「シン君、久しぶり。こっちからは変な美少女キャラしか見えないけど、向こうにはこっちの映像と音声が送られてるから」
《何度見てもおまえの正体を知っていると、キモイぞ、その格好と声》
「あはは〜っ、キミの電力落としちゃうぞぉ」
《オレが停止したら、この都市はすぐに滅びるぞ》
 二人の会話がさっぱり理解できないケイ。
 正体?
 都市が滅びる?
 どちらも触れてはいけない気がして、ケイはなにも口を挟まなかった。
《おまえが雑談でオレを呼び出すはずがない。用件はなんだ?》
「ここにいるこの子、この世界の住人じゃないんだ。あいつらって意味じゃなくて、どこから来たのかもわからない。異世界か、違う時間か、平行世界か、この世界と似ている世界から来たのは間違いなくて、しかも一九九九年の七月から来たっていうんだよ」
《ほう、興味深い。〈東京聖戦〉の時代からタイムスリップして来た可能性があるということだな》
 言葉の一つにケイは引っかかった。
「東京っていいました? トキオじゃなくて、東京都の東京? 新宿とか渋谷がある東京ですか?」
《久しぶりに聞いた地名だ。オレはあの時代、まだ小学生低学年だった。東京壊滅のニュースは嘘だと思ったのは、世界中の人々も同じだろう》
「いったいなにがあったんですか?」
《話していいのか、シュウト?》
 シキは殺人を犯しそうな満面の笑みを浮かべた。
「シン君、この都市を支える超電子頭脳のクセしてバカだろ。本当にキミはバカだ。もう言ってしまったものはしょうがないけど、ボクのことはペラペラしゃべらないでくれるかな。それ以外のことなら説明してあげて、この子はそれを聞くだけの重要な位置にいるかもしれないと思うから」
 シキの正体?
 シュウトというのはおそらく名前だろう。『格好と声』とシンが言っていたことから、おろらく今見えているシキは、本当の姿とは別なのだろう。変装だとするならば、もしかしてあのハゲの中年が……。
 言葉には出せないが、ケイはシキをじっと見つめてしまった。
 それに気づいたシキはニッコリと笑った。
「あはは〜っ、眼に見えているものが今は現実だよ。見えないものまで想像する必要ないよ」
「えっ、な、なんのことですか! あたしシキさんの正体とか、そういうのぜんぜん興味ありませんから!」
 その慌て方は、興味が大ありだと言っているようなものだった。
 シキはケイに満面の笑みを贈ったあと、話を切り替えた。
「もうひとりここで眠ってるひとがいるから、彼女が目覚めないうちに話をしよう。だいたい三〇分以内で」
 炎麗夜はまだ目覚める気配すら見せない。
 パソコン画面の魔法少女が砂時計を出した。
 砂が落ちる時間が三〇分。