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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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 炎麗夜はケイを自分の背に隠した。
「都智治潰すんなら避けちゃあ通れない道だからねえ」
 手に持っていたおにぎりを一気に頬張り、炎麗夜はフレイを近くに呼び寄せた。
「〈ファルス〉合体!」
 フレイが黄金のマントに変貌し、炎麗夜と合体を果たした。
 合体と同時に〈崇高美〉は発動される。
 先手必勝、猪突猛進!
 炎麗夜がネヴァンに突撃した。
「美しく突進(ビューティフルラッシュ)!」
 直線上に向かってくる炎麗夜をネヴァンは上空に飛んで躱した。
「そんな攻撃当たらなくてよ!」
 足を地面に向けて急降下するネヴァン!
 その足は人間のものではなく、三本の鋭い鉤爪のついた鳥の足だった。この爪で引っかかれたら肉が削ぎ落とされてしまう。
「死ねーッ!」
 凶鳥の叫び!
 だが、炎麗夜は動じない。動じるどころか、その顔を下りてくる爪に向けた。
「なっ!?」
 眼を剥くネヴァン。その足は炎麗夜の顔に触れる寸前で止まっていた。
「おいらの〈崇高美〉は鳥の足なんかじゃあ崩せないよ」
「〈ムゲン〉の能力!?」
「〈赤毛のマッハ〉から聞いてなかったのかい?」
「くっ……ならこれならどう!」
 ネヴァンは翼を扇ぎ毒粉を撒き散らした。
 空気中に溶け込ませることによって、息を吸うと同時に毒が体内に送り込まれる。
「うっ……毒か……」
 なんということだ、呻きながら炎麗夜が膝を付いた。
 まさか〈崇高美〉の効力が及ばぬ隙が狙われるとは!
 勝ち誇った笑みを浮かべるネヴァン。
「どうやら絶対の自信をお持ちのようだったけれど、アタシがアナタの天敵のようね」
「毒が回りきる前にあんた倒して解毒剤をもらうよ!」
「解毒剤なんて持ってないわ」
「自らの毒に冒されたときのために解毒剤が必要なはずじゃあ!」
「残念でしたわね。毒の耐性があるのよ」
「く……から……だ……が……」
 炎麗夜が地面に崩れた。
 戦うことを知らないケイが残された。
「炎麗夜さーッん!」
 もう炎麗夜はぴくりとも動かなかった。
 ネヴァンの顔がケイに向けられた。
「次はお嬢さんよ」
「炎麗夜さん、炎麗夜さん起きて!」
「そんなにこのメスブタのことが心配?」
「炎麗夜さんになにしたの!」
「アタシの毒で自由を奪っただけよ。躰は動かないけれど、意識もあって生きているから心配しないで、殺しはじっくり愉しむタイプだから」
 ネヴァンがゆっくりとにじり寄ってくる。
 息を呑みながらケイは後退りした。
 鋭い爪は足だけでなく、手にも鉤爪を持っている。ネヴァンはそれに舌を這わせて不気味に笑った。
「お嬢さんの胸の肉。切り裂いたら気持ちよさそうね、あぁン!」
 怖ろしくなったケイは胸を押さえてさらに後退った。
 この場は逃げるしかないのか。だが、炎麗夜を置いて逃げるというか。
 ケイはネヴァンに背を向けて走り出した。
「あたしが助からなきゃ炎麗夜さんも助からない!」
 ここでやられたら、炎麗夜を助けることもできなくなってしまう。
 しかし、ネヴァンから逃げ切れるのか!?
 上空に舞い上がったネヴァン。容易くケイに追いついてしまう。ケイの躰に差す凶鳥の影。
 その影が急にケイから外れた。
「ぎゃあっ、何事!?」
 ネヴァンの躰が地面に引きずられる。その足首には鎖が巻き付いていた。
 恐る恐るケイが振り返った先にいたのは、シキ!
「前と同じテンガロンハット探すのに手間取っちゃって。お気に入りはストックしとくべきだよね」
 その手に握られた鎖。まるで凧揚げのようにネヴァンに繋がれていた。
「おのれ新手かッ!」
 引き下ろされたネヴァンは、シキの近くで再び毒粉を撒き散らした。
 〈崇高美〉の炎麗夜すら冒した毒。吸えば一溜まりもない。
「〈毒女(どくじよ)のネヴァン〉だね。キミの毒は効かないよ。炎麗夜にも解毒剤を飲ませたけど、動けるようになるまでには少し時間がかかりそうだね」
「嘘おっしゃい、アタシの毒に解毒剤なんて存在する筈がないわ」
「〈ムゲン〉の能力ならまだしも、所詮は此の世の毒なんだよ」
「解毒剤を出すのよ、調合した奴も皆殺しにしてやるーッ!」
 鋭い足爪でシキに襲い掛かった。
「頭に血が昇って捕まってるの忘れた?」
 シキはハンマー投げの要領で、鎖を振り回してネヴァンを投げ飛ばした。
 すでにだいぶ回復していた炎麗夜は、その光景を見ながら笑った。
「あの女の天敵はシキのようだねえ」
 これまでの戦いから、シキは多くの者の天敵であることがわかっている。
 だから炎麗夜はこう続けた。
「これから〈ワイルドカードシキ〉って呼ぼうか」
 地面に落とされたネヴァンは、四つん這いになってから立ち上がった。
「アカツキにやられた傷が治ってないとはいえ、このアタシがこんな無様な姿を晒すなんて……皆殺しよ皆殺し!」
 逆上するネヴァンを見ながら、シキはニッコリ笑った。
「ボクを殺すのは不可能だよ」
 それは絶対の自信か?
「殺されたあとに後悔しても遅いわよ!」
 上空に舞い上がったネヴァンが急降下を決める!
 迎え撃つシキは鎖を投げ槍のように放った。
 それは鋭い突きだ。
 鎖の先端がネヴァンのみぞおちにめり込んだ。
「グフッ!」
 ネヴァンが墜落する。
 またも地面に叩きつけられたネヴァン。自分の重量が攻撃の威力となった。
 一方のシキは無傷で息も切らせていない。
「キミも魔導装甲使いなら〈ムゲン〉で戦ってみたら?」
「アタシの〈ムゲン〉は戦闘向きじゃないのよ!」
「でも活路が見つかるかもよ」
「そんな見たいのなら、見せてやるわ。〈スペルプラス〉『私バカですけど』」
「えっ、私バカですけど」
 驚いたシキはさらに驚いた。
 炎麗夜も呆気に取られている。
「私バカですけどってなんだい、私バカですけど」
 言った本人はすぐに気づいた。
 まだ気づいていないのはケイだ。
「みんなどうかしちゃったの、私バカですけど」
 たしかに戦闘向きではない。だが恐ろしい〈ムゲン〉だ。おそらくネヴァンの指定した言葉(スペル)を語尾に、しゃべった者は強制的につけてしまうのだ。
 慌てるケイ。
「なにこれ、私バカですけど。あたしバカじゃないし、私バカですけど。だから、私バカですけど」
 相手を混乱に陥れる技だ。
 炎麗夜が叫ぶ。
「しゃべるんじゃあないよケイ! 私バカですけど」
 あまりの馬鹿馬鹿しさにシキの躰から力が抜けた。
「本当にくだらない〈ムゲン〉だね、私バカですけど」
 この隙にネヴァンは高く高く上空に舞い上がっていた。
「アナタたち本当にバカね、私バカですけど。勝負はお預けよ、私バカですけど」
 本人にも適応されるらしい。
 シキは鎖を放ったが、もうこの距離では届かない。
「逃げられた、私バカですけど。これいつまで続くのかな。あっ、治った」
 もうネヴァンの姿は見えなかった。技の効果は範囲的なもので、ネヴァンとの距離が関係あるのかもしれない。
 とりあえずこれで危機は去った。
 どうにか生き残れたことにケイは安堵した。
「シキが助けに来てくれなかったら。それにしても精神的にダメージが来る〈ムゲン〉だったなぁ。もしもエッチな言葉なんかいわされたら……あぁン!」
 突然、変な声を出してしまったケイ。