北へふたり旅 61話~65話
東北新幹線の折り返し時間は、13分。
降車に2分。乗車に3分かかる。のこされた時間は7分。
この7分間で新幹線の清掃がおこなわれる。
乗客が全員降りたあと、スタッフのひとりが信号を操作する。
ホームの端に設置された信号機が、赤に変わった。
移動禁止のサインで、これが清掃開始の合図になる。
スタッフが車両へ散っていく。
(散っていくぞ?・・・どういうことだ?)
ひと車両、およそ100席ある。しかし車両へ乗り込むのはたったの1人。
(え・・・ひと車両をひとりで担当するのか・・・大丈夫か、たった1人で)
神業の清掃がはじまる。ゴミを集める。座席のリネンを交換していく。
座席の折り畳み式の机、窓際、床を拭きあげていく。
これら一連の動作の中、目は座席や棚の忘れ物をチェックしていく。
(見事だ・・・ホント、神業だ)
動きによどみがない。
てきぱき動く。みごとな手順に用事を忘れ、思わず見とれてしまった。
どれほど汚れていても、かれらは動じない。
トイレ掃除担当のスタッフも、それは同じこと。
どんなに汚れていても、7分以内でトイレを完璧に仕上げていく。
7分後。仕事を終えたスタッフがホームへ降りてきた。
「お待たせしました」上京していく乗客にむかい、丁寧に頭を下げる。
一礼した後、スタッフたちは次の持ち場へ移動していく。
礼儀正しさに感動した。すがすがしさにおもわず胸があつくなった。
「ブラボ~ッ。素晴らしい!」ちかくに居た外人さんが手を叩いた。
わたしもつられ、思わずちいさく手をたたいた。
彼と彼女たちの仕事ぶり、礼儀正しさは素晴らしい。賞賛に値する。
これこそおもてなし日本だと、思わず口の中でつぶやいた。
「あなた。感動するのもいいですが、牛タン弁当はどうしました?」
「あっ・・・いけねぇ。そいつをすっかり忘れてた!。
そのために歩いていたんだ。俺は」
「うふっ。そんなことだろうと思いました。
もう買ってきました。わたくしが。
素晴らしかったですねぇ。あのひとたちの清掃の手さばき。
あれこそプロです。
わたしも思わず手をたたいてしまいました」
「仙台でいいものを見せてもらった。いい旅の思い出になる」
「それより急ぎましょう・・・
わたしたちの乗るはやぶさ号が、まもなく到着します」
(62)へつづく
作品名:北へふたり旅 61話~65話 作家名:落合順平