北へふたり旅 56話~60話
「仙台四郎の写真を見せられたとき、びっくりしました。
あのかた、パンツをはいていないの。
だから・・・あれが・・・丸見えです。
わたしが10代のときでした。女学生です。恥ずかしくて
顔から火が出ました。
それで覚えているのです」
四郎は明治時代、仙台市に実在した人物。
とりたててなにか大きな仕事をした訳ではないが、
なぜかこの人の肖像画が、家運上昇、商売繁盛の御利益があるとして、
飛ぶように売れるという。
「たしかに強烈だ、それは。どうりで君の記憶に残るはずだ。
ほかにないの。仙台の名物は?」
「冷やし中華が、仙台の発祥。
日本最古といわれるハンバーガ店も、仙台に有ると聞いています」
「食べるものだけだ。君の名物は」
「うふっ。しかたないでしょ。食いしん坊ですから。
あら・・・ホームにチラッと、駅弁のお店が見えました」
「うん?。ホームに駅弁の店が見えた?
あ・・・まずい。おい降りるぞ。
いそいで降りないと、後から来るはやぶさ11号に乗り損ねる」
あわてて荷物へ手を伸ばす。
数分前から降りる準備をととのえていたのに、いつのまにか妻と
仙台の名物談議に夢中になっていた。
やまびこ号はすでに停車寸前。
「忘れ物するな。初日から忘れものじゃ最悪だからな」
「だいじょうぶです。忘れても」
「何言ってる。忘れたら大変だろう」
「あとから来るはやぶさのほうが、先に盛岡駅へ着きます。
はやぶさの盛岡到着は11:47。
わたしたちが乗ってきたやまびこは、12:07の到着。
忘れものしても、盛岡駅で受け取ることができます。うふっ」
あとから来るはやぶさは仙台を出たあと、ノンストップで盛岡まで走る。
やまびこは途中の古川・くりこま高原・一ノ関・水沢江刺・北上・新花巻と
すべての駅で停車していく。
やまびこがどこかの駅で停車している間、あとから追って来たはやぶさが
時速320キロを保ったまま、あっという間に抜き去っていく。
(61)へつづく
作品名:北へふたり旅 56話~60話 作家名:落合順平