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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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馨の結婚(1)

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そして僕は順当に中学から高校へと上がり、受験勉強をする時がやってきた。入る大学は決まっていた。


うちは長男は皆、同じ大学に入る。そこにトップの成績で入学できるかどうかが、僕にとっての問題だった。


「勉強はどこでもできる」というのが、小さな時から自宅学習をしていた僕の持論で、大学はどこでもよかった。


ただ、首席でなければ僕は父さんに厳しく叱られるだろうことはわかっていたし、僕も自分を最高にまで高めたかったので、苦手な数学を中心に寝る間も惜しんで必死に勉強をした。




試験当日、確かな手ごたえを感じて僕は満足して帰宅し、両親は久しぶりに家に揃っていた。


僕が試験の内容を二人に話すと、二人とも安心したようで和やかに労ってくれて、一緒に食事をした。そして、合否通知が届くまでは、僕は何かと両親に気遣われて過ごした。


それは三月の始め頃に届いたけど、そこにはトップだったとは書かれていなかった。大学側からの、「新入生代表で挨拶をしてくれ」という連絡も来なかった。


数日は大学からの連絡が遅れただけかと思ったけど、入学式の一週間前になっても音沙汰はなく、ついに父は食事の席で激怒し、「それでもお前は上田家の長男のつもりか!」と怒鳴り声を上げた。


母がすぐにとりなしてくれなければ、僕は食事を続けられなかったかもしれない。





僕は陰鬱な気分で入学式を迎えて、区の施設にあるホールで、列の途中に並んでいた。


「早く終わればいい」と思って悔しい気持ちを抑えていたが、「新入生代表の挨拶」と学長がマイクに吹き込んだ時、僕は思わず顔を上げて、檀上に上がって行くのがどんな人なのか、目をこらした。



控えめで低いヒールの音がして、その生徒が檀上に上がる後ろ姿が見えた。それは、長い髪を低い位置で一つに結んで、質素なスーツに身を包んだ、小柄な女の子だった。


その子は階段を上がったところで一礼をして、マイクの前に進み出てこちらへ顔を向ける。その顔は、とても晴れやかだった。



まさか。自分は女の子に負けたのか。そう思って僕はしばらく落胆していたが、その子の挨拶を聞いていて、なぜ僕が負けたのかの理由がわかった。



「…私は、十二歳の頃、この大学の哲学科で教鞭をお取りになっていらっしゃいます皆川教授の著書を読ませて頂き、この方に是非師事したいと思って、今日まで努力しました。ですから、今ここに居られることがとても嬉しいです。そして…」



ああ、そうか。そんな小さい頃からこの大学を目指して、きっと猛勉強をしたんだ。それじゃあ勝てるはずがない。それに、この挨拶をするのは彼女こそふさわしい。僕はそう思った。


それから、自分の自由な選択で進む道を決められる彼女を少しだけ羨ましく思い、そのために長年の努力を続けてきた彼女を、僕は尊敬した。


彼女が語った挨拶はとても丁寧で、声も耳障りが良かったけど、見た目にはよくいる普通の女の子にしか見えなかった。



でも、最後に一礼して顔を上げた彼女のしっかり伸ばされた背筋と、素直に開けられた両目の輝き、誠実そうな眉が、僕の目に焼きついた。





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作品名:馨の結婚(1) 作家名:桐生甘太郎