未来は私らの手の中
「随分と議論が白熱していたようですが、一体何を話していたのですか?」
裕子は待ってましたと言わんばかりに、
「麻衣子の馬鹿が宣伝のために学祭でバンドやろうなんて世迷言を吐かし始めたんです。先輩からもなんとか言ってやって下さいよ」
と、言って直子の方を見た。良識ある発言を期待していたがその予想は無残にも裏切られた。
「バンドですか。いいですね、やってみたら如何ですか」
直子の意外な発言に裕子が焦る一方、麻衣子は形勢逆転の兆しに思わず拳を突き上げ快哉の声を上げた。
「ちょっと先輩まで何言ってんですか! そこヒャッホーとか歓声上げてんじゃねぇ!」
麻衣子は裕子が言い終えるよりも先に立ち上がり、人差し指を突きつけ叫んだ。
「チェックメイトだ、我が戦友よ」
敵の大将の首を討ち取ったかの如く、その目は自信に満ち溢れていた。裕子は正直もう疲れてきていたので、
「(こいつら完全にイカレてやがる・・・もうどうでもいいや。反論しても疲れるだけだし)私の負けのようね。後は好きにすればいいわ」
と、自棄気味に言った。ここで部内論争の幕は一応閉じることになったが、麻衣子としてはいささか釈然としないものだった。
「なんか奇妙な間があったのが気になるけど……まぁいっか。とにかく副部長の賛同も得たことだし学祭ではバンドをやります!」
まばらな拍手(したのは直子のみ)が起こった。
とうとうミーティングが開始された。ホワイトボードの前に麻衣子、他の三人はそれぞれパイプ椅子に腰掛け、ようやくそれらしい形になったのだが、麻衣子以外のモチベーションはトータルするとかなり低いものである。
先ほど論争に敗れた裕子は真剣に窓の外を眺めている上、茜は『このパズルが凄い!』なる雑誌を気だるそうに解いているという有様、さらに直子はと言うと終始穏やかな笑みを浮かべてはいるが、何を考えているのかは全く不明である。見かねた麻衣子が大声を張り上げた。
「ちょっとあんたたち! あ、先輩は除きますけど、あー、もう、なんと言ったら良いやら」
「へ、まごついていやがる」
裕子のネチネチした小言が炸裂する。再び戦いの火蓋が切って落とされるかと思われたが、茜がすっと手を挙げた。
「肝心なことをほとんど聞いてないんだけどさぁ、幾つか質問させて貰って宜しい?」
その一言に二人はユニゾンで怒鳴った。
「「何よ」」
「そらこっちの台詞だよ。大体さぁ、バンドやるって言っても色々と準備が必要になんのよ。そもそも麻衣子、あんた楽器弾けんの? そりゃあたしはギターなら少しは弾けるけどさ、ドラムとかベースはどうすんのよ」
愚問だ、とばかりに麻衣子は言った。
「そんなことは心配には及ばなくてよ、茜さぁん。茜がギター兼ヴォーカル、ドラムはあたし、ベースは裕子。完璧じゃなくて?」
「あんたドラム叩けんの?」
「中学ん時は吹奏楽部でドラムやってた」
どうだ、と麻衣子は胸を反らした。