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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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涼子の探し物(7)

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私はその晩、お父さんに「誕生日プレゼントは後から選んで送るから」と言ったけど、お父さんは「いいよ、忙しいんだから勉強を頑張りなさい。それが父さんへのプレゼントだ」と言って寄越した。

お父さんは優しい。お母さんも、心配性なくらい人をいつも気に掛けている。



私は…?私のしている事って…本当に、良い事なのかな…?



その晩は、明日への緊張で寝つかれないかもしれないと思っていたけど、なぜか酷く疲れていたのか、久しぶりにぐっすりと眠れた。





翌朝は雨が降っていた。私はお母さんの作ってくれた朝食の鮭を美味しく食べ、「ごめん、急に明日バイトの予定が入っちゃったの、東京でやることもあるから、送って行ってくれない?」と頼んで、無事、駅まで送ってもらった。

「じゃあお母さん体に気を付けてね、ここでいいよ」

お母さんは運転席のウィンドウを下げて私に微笑み、「あなたも体に気を付けるのよ、本当に。お父さんの言ってたように、少し痩せたように見えたのよ」と言った。

「うん、わかった。ありがとう、じゃあまたね」


私はお母さんの運転する車が駅前のロータリーをぐるりと回り、それから家へと向かう国道を曲がって行くところまでを見送ってから、ホームに背を向けて歩き出す。



お父さん、お母さん、黙ってこんな事をしてごめんなさい。もしかしたら、物凄く迷惑を掛ける事になるかもしれない。

でも、私はあの子を黙って見ていられないの。



私はお寺に向かって、チョコレート色のキャリーケースを引きずって行った。






お寺は、空気が澄んでいる。そして、いつもとても静かだ。たくさんの杉の木はとても樹齢が高いのか、どっしりとして天高く背を伸ばし、足元の根っこは苔むして、その杉の木が挟んでいる石畳にも苔が少し生えている。

雨の寺の石畳は、まるでこのお寺を天から降る水で湿らせ、浄化しているように、雨水がいつも通っている石の窪みへと流れ、階段にちょろちょろと落ちていく。


私はとにかくどこかに人が居ないかと、お寺の中を歩き回った。







「住職は今手が離せませんで…事前にご連絡を下さいましたならば…お時間も取れたかもしれないのですが…」

「そうですか…」

私は、寺務所らしき建物の戸を叩き、中から出てきた若いお坊さんに、そう言われた。やんわりとだけど、有無を言わさないようなその口調に、私は一瞬諦めかけた。でも、やっぱり諦める気は無かった。



お寺で働く人に対してこの質問をするのって、愚問なのかしら?と思いながら、私はその、まっさらに綺麗な白い袴を履いたお寺の人の目を見つめる。



「あの…あなた、幽霊って信じますか?」


「はっ…?」



その時、私達の後ろで、「お客様かい」という、酷くしゃがれた声が、ゆっくり響いた。








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作品名:涼子の探し物(7) 作家名:桐生甘太郎