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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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涼子の探し物(7)

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「お父さん!おかえり!」

私はぱっと振り向いて玄関へ向かう。正直に言えば、「どうしてこんなことを急にこの子は気にし出したのかしら?」というお母さんを振り切るためでもあったが、それより何より、今日はお父さんの誕生日だ!


「おお、母さんから聞いてたぞ。おかえり。どうした、また少し痩せたんじゃないか?」

「うん!ただいま!え?痩せた?そんなことないけど。久しぶりに会ったからじゃない?」

「そうか。気のせいかな」

「うん。お父さん!お誕生日おめでとう!」

「ありがとう、涼子」

私は家の廊下を、お父さんを振り返りながら台所まで歩いて行く。お父さんはくたびれていた様子だったけど、優しく微笑んで私を見つめてくれていた。


お父さんが食卓に就くと、お父さんの前で俯いていたお母さんに、お父さんは「またあのことを考えてたの?少しは君も休まないと」と、心配そうに声を掛けた。

お母さんははっと顔を上げ、お父さんを責めるような目で見る。それは、私が居るのにこの話を始めた事に対してのように見えた。

「この子にも、もう話したんだろう?さっきから君を心配してるのが私にもわかった」

お母さんはまた俯いてしまったが、お父さんはため息を吐いて「聞いたんだろう?」と私の方を向く。

「お子さんを亡くした、人のこと…?」

「そう」

「やっぱり。悦子、こうやって涼子も心配になるんだ。私だってとても心配なんだよ…」

お母さんは泣いていた。



そりゃあそう。私だって、美絵が同じ目に遭ったとしたら、黙って見ていることも、同じように苦しまずにいることも、出来るはずがない。



「お父さ…」

私がそれを言い掛けた時、お父さんが「あ、」と言った。


「そういえば、お母さんの三回忌の法要を、今年やらなくちゃいけないな」

「そうね…お義母さんの法要は、やらないとね…」


お母さんは辛そうだった。お父さんも「親友を心配し過ぎてしまう事は承知の上で、妻を癒してあげなければ」と思ったのだろう。だから次の一言を言ったんだと思う。


「その時に、亡くなった子の墓参りでもしてあげなさい。同じ寺なんだから」




私はそれを聞いて、なるべくお父さんとお母さんに気づかれないように動悸を押さえ、熱くなる頬を必死に留めて、トイレへと向かった。











もう決めたわ。こうなったらもう専門家に頼むしかない!


良一君とおばあちゃんが同じお寺なら、そこの人に頼むのよ!そうよ!


私はそう思って、トイレで蓋を閉じたままの便器の上に蹲っていた。手の震えを押さえようと、必死に両手を揉みしだきながら、頭の中で段取りを整える。


明日の朝、「早く帰らなくちゃいけなくなったから」と言って、駅まで送ってもらって家族と別れたら、駅から歩いて20分くらいの、うちの家族も入っているお寺に行って、どうしても和尚さんに会わせてもらうわ。


それで、どうやったら良一君が救われるか聞く。


もし和尚さんに会わせてもらえなかったり、和尚さんが私の言う事を信じなかったりしたら…そうよ!お寺なんて、東京にだっていくらでもあるじゃない!



まだこの方法があったのよ!お寺を百軒回ってでも、良一君が救われる方法を探すわ!



作品名:涼子の探し物(7) 作家名:桐生甘太郎