私にできる事
その誰かが思い当たらないので、私が動くしかないと思った。
私はもう、このやるせない世界には居たくなかった。
「わあわあ、痛いよう」
やはり女の子は泣いていた。私は女の子の膝に手を当て話し掛けた。
「大丈夫、きっとお母さんがもうすぐ来るよ」
女の子は涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を見た。
「来ないわ、私にはお母さんがいないもの」
なんてやるせない出来事だ。
私が来たのは間違いだったかしら。
「じゃあお家は?私が送っていってあげるよ」
私が言うと女の子はにっこり笑った。
「本当に?ありがとう、お姉ちゃん」
その可愛らしい笑みを見て、私は間違ってなかったと思った。
「かあかあ」
やはりゴミ置き場では相変わらずカラスがつつき回していた。
私は今買った安いネットをゴミ置き場に被せた。
カラスは私を遠巻きに見つめて、不満げに鳴いた。
地面を何度か跳ねてから、電線のカラスと一緒に飛び去っていった。
「やあ、そのカラスには困っていたんだよ、ありがとう」
ゴミ置き場の前の家のおじさんが言った。
私はとても満たされた気持ちがした。
私は走った。あのノラ猫の元へ。
猫を拾おう。暖かい部屋に連れて行ってあげよう。おいしいご飯を食べさせてあげよう。目一杯可愛がろう。
そうしたら、このやるせない世界とはさよならできる。そんな気がした。
私の目の前に倒れていたのは、血の海に沈んだ、あのノラ猫だった。
私は屈み込みノラ猫に触れた。そこにはもう生命の輝きは見られなかった。
私は泣いた。声の限りに泣いた。叫んで、喚いて、心を空に発散させた。
救いたかった。
私はもうその時、やるせない世界からはさよならして、暖かい世界へ歩き始めていた。
次に会う時には、もうやるせないなんて言わせないから。