小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

かごめ ~今月のイラスト~

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「……では私は亀ですかな……あちこちガタが来始めていてとても万年は生きられそうにはありませんが……」
「それは、この世での話……」
「なるほど、あの世でならば万年も永らえることも出来るのかもわかりませんな……このひと月ほど貴女を見続けておりました……年甲斐もなくときめいてしまいましてな……」
「後ろの正面……だあれ?」
「貴女……ですかな?」
「はい……お迎えに参りました……私と一緒に参りましょう」
 常吉は心からの笑顔を浮かべた……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「常吉さんはいつものように箒を持って……ふと振り向いて誰かと話しているように見えました……そしてふっと……体から力と言う力が抜けたみたいにふわりと崩れ落ちたんです……」
 常吉の葬儀の席、その朝、向かいの旅館で同じように玄関前を掃き清めていた女中がそう話していた。
「お医者様の見立てでは心臓発作だと言うことだが……」
「ええ、でも全然苦しんだりした様子はなくて、本当に魂が抜けたかのように……顔も穏やかだったでしょう?」
「ああ、まるでこれから天に昇って行くのを喜ぶように微笑んで……あんな死に顔は見たことないよ」
「ご褒美だったんじゃないでしょうかねぇ」
「ご褒美? 誰からの? 何に対して?」
「常吉さんは番頭さんひと筋に生真面目に生きて来られましたし、裏表のない、優しい良い人でしたからこの街の誰もが好いていましたよ、天がそんな常吉さんを召さなければならない時が来たのなら、せめて苦しみもなく、穏やかに連れて行ってあげたいと思うんじゃないでしょうかねぇ……」

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 数年後、コロナ禍は収束し、温泉街も活気を取り戻した。
 常吉が亡くなったのが閑散とした時期だったのが幸いして後継となる番頭も無事に育ち、常吉が勤め上げた旅館も盛況を見せている。
 そして、紫陽花の浴衣の女性は姿を見せていない。
 死期が迫っている人間にしか見えないのか、それとも人出に紛れているだけなのか……。
 それを知る人物は既にこの世の者ではないので、誰にもわからないことだが……。
作品名:かごめ ~今月のイラスト~ 作家名:ST