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された記憶がない

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「で──」

 デートの終盤。

 いつもベンチに、俺は腰を下ろした。

「…来週は、何処に行く?」

 続いて隣に座った曜子が、ボソッと口にした。

「確認なんだけど…」

「?」

「─ 私達って、付き合ってるの?」

 耳に入った言葉が、俺の脳内で意味を成す。

「デ、デートの終わりに…そう言う事 聞くか??」

 曜子は、何も言わずに俺に向かって小首を傾げてみせる。

「ど・う・な・の?」

「付き合ってない男女は、何回もデートしないよな??」

「でも私…された記憶がないし」

「な、何を?」

「アンタからの、こーくーはーくー」

 そもそも、最初に声を掛けてきたのは曜子の方だ。

 付き合う様になったのも、ある意味なし崩し。

 告白と言う儀式が入り込む余地など、ありはしなかった。

 反論しようと思った刹那、曜子が俺の目を覗き込む。

「し・て・く・れ・な・い・の?」

 この状況では、何を言っても俺の負けだ。

 仕方なく、問題の先送りを図る。

「じゃ、じゃあ…何れ 機会を改めて……」

「いーまーすーぐー」

「え?!」

「こう言うのは…勢いだよ?」

 どうやら告白しないと、この場は治まらないらしい。

 諦めて覚悟を決め、呼吸を整える。

「お、俺と…つ、付き合って欲しいんだけど……」

 満面の笑みを浮かべる曜子。

「はい。よく言えました♪」

 いつもの悪癖で手を伸ばした曜子が、俺の頭を撫でる。

「良い子だから返事は、次のデートまで待ってね♡」

「─ は!?」

作品名:された記憶がない 作家名:紀之介