世界一キレイなもの
「夕日がキレイなのは、そう思う僕達の心がキレイだからさ」
彼女は目を細めた。
「私はキレイじゃないわ」
僕は立ち止まり彼女に向き直った。
「キレイだよ、君は世界中の誰よりキレイだ」
僕は夜の闇に紛れるように黒い彼女の髪に触れた。
「見た目がじゃないよ、僕はそんな陳腐な台詞は嫌いだ」
「分かってる」
彼女は微笑んでから空を見上げた。
「月だわ」
僕も同じように空を見上げた。
「月だね」
僕達は暫く無言で空を見上げていた。
彼女は微笑んだ。
「あの月、とってもキレイ、あれを醜いだなんて言えないわ」
僕も微笑んだ。
「そうだね、とってもキレイだ」
彼女が僕の目を見つめて言った。
「世界はキレイなものが沢山、でもその中でも、あなたが一番キレイよ」
僕も負けじと言い返した。
「僕には君が一番キレイに見えるよ」
僕達は二人笑い合った。
人間がちっぽけで弱い生き物だなんてちっとも思わなかった。
ほら、僕達はこんなにも強く、気高く、美しい。