内緒の計画
「な、何で自分の方が 消えないといけないんですか!」
調停室で俺は叫んだ。
「オリジナルは、こっちの方なんですよ!!」
書類から、調停官が目を上げる。
「それは、存じております」
「じゃあ、どうして!!!」
「まず第一に、法的に有効な 事前の取り決めがありません。
もしそこに、<オリジナル体を残すべし>と規定されていれば、問題なくあなたが残る事になったでしょう。
しかしながら今回は、その取り決めが御座いません。つまり、オリジナル体を残す、積極的な理由はない事になります」
確かに3年前、俺は法的な書類を作らなかった。
しかし、そんな事は関係ない。
「ほ、法では<原則オリジナルを残す>と、規定されている筈です!」
調停官は、淡々と答えた。
「それは、<公益を毀損しない>限りです」
「オリジナルを残す事こそが<公益>ですよね!?」
「どちらを残す事が、より<有益>かと言う事です。
あなたの親族や利害関係者に確認したところ、全員が3年間共に過ごした存在、つまりコピー体の方を残す事を望まれました。
それを踏まえた上で、オリジナルであるあなたを処分し コピーを残すべき事こそが、<公益を毀損しない>事であると、当調停所は判断した次第です」
どうやら俺は、3年間好き勝手をした報いで、俺は周囲の人間から見捨てられたらしい。
膝から崩れ落ちた俺の背後に、ふたりの係員が近づく。
彼らに無言で何を指示した調停官は、手にした書類を机上でトントンと揃えた。
「安心してください。オリジナル体は消滅しても コピー体は残ります。つまり、今後もこの世界に、<あなた>が引き続き存在し続ける事には、変わりないのですから。」