黄昏クラブ
「ええ。次の部長に引継ぎしてたところです」
「じゃあ」
三富先生が、黒味彩也香に視線を移す。「あなたがヌシを継ぐのね」
「はあ……」
黒味彩也香が間の抜けた返事をする。
「いずれにしても、早く帰ることよ。早乙女さんもね」
そう言い置いて、三富先生は部室を出て行った。
その後、黒味彩也香は立派にヌシを引き継いでくれた。彼女は毎日部室に籠ってはゲーム三昧だった。それもあって、私が古典部の部室を訪れる機会はなくなってしまった。数度、トイレに行ったついでに手をかけてみたことはあったが、いずれの時も鍵がかけられたままだった。
吉井のどかと会うことは、あれ以来なかった。
ひとつだけ、発見があった。だからといって問題が解決したわけでは決してなかったのだが。
ある日、黒味彩也香と部室の整理をしていた時、私は過去の冊子に一通り目を通していた。その中に、私は見つけてしまったのだ。
三年C組 文芸部長 吉井のどか。
目次にははっきりとそう書かれていた。年を見ると、昭和六十一年度になっている。
私はそのページを開き、書かれてあることを読んだ。タイトルは『古典と文芸の交点』。いつか彼女が語っていたことの詳細が、そこには記されていた。
そうか、そういうことだったんだ――
彼女は、消えてなくなるわけじゃないと言っていた。かつてここで過ごした吉井のどかの半分――その思いに私は触れたのだ。
今はもう、どこにいるのかも分からない彼女に向かって、私は微笑んだ。