黄昏クラブ
それよりも何よりも、せっかくの華の女子高生なのに男っ気が全くない方が大問題なのだ。
「それを言うなら、『氷点』の登場人物も相当に胡散臭いんじゃない?」
「ええ、それは、まあ……」
「古典を勉強すれば、堂々と人の悪口を書けるのよ」
くすっ。
思わず笑ってしまった。
これまでそういう視点で古典を見てこなかったから。
「あなたは、帰るんじゃなかったの?」
訊かれて意味もなくたじろいだ。「帰った方がいいわよ。私は、もう少しここにいるから」
彼女はもう私には何の興味もないかのように、窓の外の方を向いた。
私はしばらくは座ったままでいたが、かけるべき言葉もないままに席を立った。
「じゃあ、お先に」
夕照の光の中、彼女は振り向くこともなく、右手のひらだけで別れの仕草をした。
「えー? 謎の少女を問い詰めもせずに、すごすごと引き下がったわけ? 信じらんない!」
真紀理が声を上げる。
「引き下がったんじゃないわよ。空気よ、空気。分かるでしょ? あんたも」
「分かんない」
「よく分からないけど、あの時は帰らなきゃって気持ちでいっぱいになったのよ」
「ふうん、空気か。のほほんってしてるようで、お母さんもそれなりに気を遣ってたんだ」
「のほほんは、あんたでしょうが」
私は、真紀理のおでこを小突いてやる。
「親の心、子知らずってやつ?」
「それは違うわよ」
「じゃ、以心伝心?」
「違いますっ! 蛙の子は蛙!」
言ってしまってから、しまったと思った。
「残念でした! 蛙の子はオタマジャクシだよーん!」
「オタマもいずれは蛙になるんだから一緒!」