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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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黄昏クラブ

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 私は伏せていた眼を彼女に向けた。
「私は、もうすぐお留守番しなくてよくなる。だけれど、それがいつなのかは分からないの」
「それって――」
「大丈夫よ。それは、今日じゃないわ」
「それは、分かるのね?」
「それくらいはね。ただ、それは明日かも知れないし、明後日かも知れない」
「誰かに――」
「いいえ。誰に強制されてのことでもないわ」
「何なのよ、それって。なんだか頭がおかしくなりそうだわ」
「混乱させてしまって、ごめんなさい」
「あなたのせいじゃないんだったら、あなたに怒ることもできない」
「怒ってるの?」
「何に対してかは分からないけど」
「……」
「ねえ、あなたはどうして怒らないの? みんなが楽しんでる学園祭にも参加しないで、ひとりっきりでお留守番なんてあり得ないじゃない? いったい、何のために?」
「ここにいたいからって、前にも言わなかった?」
「言ったかもしれないけど。だからって一歩も出ないなんて、おかしいわ」
 ふふふと、彼女が小さく笑った。
「何がおかしいのよ」
「あなたは、私に関して色々と理不尽だと思っているのよね」
「当たり前でしょ」
「でも、それはもう少し保留しておいてくれないかしら」
「ちゃんと、話してくれるの?」
「分からない」
 彼女が、私を真っすぐに見つめてきた。「ただね、私はいなくなるの」
「いなくなる?」
「そうよ。私は、ここからいなくなる。たぶんね。でも、あなたにはそれが分かるのかどうか」
「ちょ、ちょっと。何を話してるのか――」
「心配しないで。消えてなくなるわけじゃないわ。私が幽霊なんかじゃないってこと、あなたも知ってるでしょ?」
「う、うん……」
「私は、もっともっと、あなたとお話したい」
「でも、話すことなんてもうないわ」
「だったら、ここにいてくれるだけでも」
「それで、いいの?」
 彼女が頷く。
「私なんかで?」
「あなたは、自分を過小評価しすぎる」
「だって、私には何も取り得なんて無いし」
「本当に、そう思ってる?」
「自慢できることなんて無いし」
「自慢できることが、取り得だとは限らないわ」
「まあね、それは分かるけど」
「大丈夫よ」
「何が大丈夫なのよ?」
「あなたは、ここにいる」
「そんなこと――」
 当り前じゃないという言葉は封じられた。柔らかな彼女の唇によって。
 私は抵抗する力も失せて、甘やかな口づけを受けていた。彼女の口は、先ほど飲んだコーヒーの味がほのかに香っていた。

「ちょっと!」
 真紀理が言う。「お母さんって、レズっ気あったの? マジで? ヤバいじゃん」
「馬鹿、そんなのあるわけないでしょ」
「だって、チューしちゃったんでしょ?」
「んー。それは、まあ……」
「うっわ。全然知らなかったわ」
「べつに知らなくても問題ないでしょ。ここに、ちゃんとあんたが生まれてるんだから」
「そんなの、証拠にならないよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「まあ、いいや。続きが気になる」
「じゃあ、おとなしくしてなさい」
作品名:黄昏クラブ 作家名:泉絵師 遙夏