黄昏クラブ
交代の一年生は時間通りに来てくれて助かった。朝方もらった番号札の順番に近づいていて、先ほど九十番から九十五番が呼ばれていたからだ。札だけもらったものの何かの用事で来られない者が多かったのか、進み具合が早い。占いコーナーへ向かっている間にも、早くも九十五番から九十九番が呼ばれた。
急ぎ足で歩いていると、小夜里に呼び止められた。
「彩夏ってば、いつまでその格好でうろついてんのよ」
「いいじゃん、宣伝してあげてるんだから」
背中に貼られたゼッケンを見せる。
「よくそれで恥ずかしくないわね」
「自分からは見えないからね」
呆れる小夜里に、私は言い返す。「じゃ、私の番もうすぐだから」
「はいはい。いい結果が出るといいね」
占いコーナーに前には人だかりができていたが、番号を呼ばれた者は教室の前に並べられた椅子で待つことになっている。私の前には二人が座っていた。これなら、すぐに順番が回ってくるだろう。
しばらくすると、女子生徒が顔を覆って部屋から出てきた。きっと悪い結果だったのだろう。可哀そうにと思いつつ、次の者が呼ばれて私も席を一つ詰める。
次の子も鼻をすすり上げながら出てきて、今年は厳しい結果が多いのかなと、憂鬱な気分になる。ひょっとして、これが予想よりも早く順番が回って来た原因なのかもと勘繰りたくもなる。
そして、いよいよ私の番が来た。
引き戸を開け、暗幕をくぐって中へ入る。
生徒用の机に黒い布を掛けて、怪しい衣装を身につけた先生が慇懃な様子で座っている。
「また、君か」
先生が言う。
「だって、仕方ないでしょう」
「あのな、自分から行動しないことには何も変わらないんだぞ」
「そんなこと、分かってます」
「じゃあ、今日は何を占ってほしいんだ?」
「えーっと……」
私は、考えるふりをする。「私を好きな人がいるかどうか」
「ああ、今回は分からないんだ」
「分からないから、聞きに来てるんじゃないですか」
「ま、そうだな。じゃあ――」
先生がカードを切る。「カードを三つの山に分けて」
言われるままに、カードを分ける。先生はカードをツリー形式で並べてゆく。その間、無言だったり唸ったり、どうも良くないようだ。
「早乙女」
先生が言う。「お前、今までのこともあるけど、大丈夫か?」
「大丈夫って?」
「お前、ここに来る必要もないだろ?」
「え?」
「ずばり、お前を好きな奴はいるよ」
「まさか。――あいつ? それとも……」
「誰が誰なのかまでは分からないけど、お前自身気づいてるのじゃないのか?」
「何人とか、分かりますか?」
「三人、四人かな」
「そんなに! でも、誰かは分からないんですよね」
「ああ。そこまでは」
「えー? 誰なんだろう?」
「ま、心当たりはあるはずだから、考えてみるんだな。悪い結果じゃなくて、良かったな」
「ああ、はい」
「じゃあ、健闘を祈るよ」
これで、私の占いは終わった。
どこか釈然としないままに、占い部屋を出る。
この私を三、四人も好きな人がいるだなんて――!
でも、告白されたのは一人だけだし、残りはいったい誰なのよ――。
もう、やるべきことといっても特にない。まだ初日にも関わらず、学園祭の喧騒に|倦《う》んでしまっていた。
で、当然のごとく部室へと足を向ける。
「よお」
顔を覗かせるなり、稲枝が声をかける。
「稲枝、番じゃないのに、どうして?」
「飽きたからさ」
「飽きたって、まだ初日なのに」
「そういうヌシこそ、自分の番でもないのに来てるじゃないか」
「私は――。私は、いいのよ」
「まあ、ヌシだからな」
「そういうことよ」
「でもさあ、幾ら似合ってるからって、いつまでその恰好でいるつもりだ?」
「え? あ……」
そう。私はクラスの甘味処の女給の衣装のままだった。
「着替えて来いよ。そのまま帰るわけにもいかないだろ」
「分かった。もうちょっと、ここ見てて」
「はいよ。ヌシの番でもないんだし、急がなくてもいいぞ」
「稲枝の番でもないでしょうに」
「まあな」
稲枝は笑った。