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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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黄昏クラブ

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 彼女が言う。「私たちは知らないことの方が多いの。ねえ、分かるって意味、知ってる?」
「分かる……?」
「そう。分かるってね、分けるという意味なの。何かが何かでないと分けて認識することなのよ」
「うん……。でも、それが?」
「そうね。例えば植物ね。昔の人は、どれが食べられて、どれが食べられないかを分かる必要があった。つまり二択ね。そこから進化して、食べられるものでも美味しいかそうでないかを分けた。できれば美味しいものを食べたいものね」
「うん」
「そうやって分けて認識していくと、認識されないものがどんどん増えていくのね。これは麦、これは米、これは芋。そうやって分けていく。分けるというのは、それ以外のものから何かを選り分けること。分かり易く言えば、あなただってトマトやナスは分かっても、雑草の種類までは知らないということ。もっと極端に言えば、空の星の一つに名前を付けたら、それ以外の星は無名のものになってしまう。逆の言い方をすれば、どれにも名前がついていなかったら、全てが星という一つの単語で済ませられるっていうことよ」
「うー……ん、そうかあ……」
「まあ、そんなに難しく考えることはないわ。所詮人間は知らないことだらけってだけよ」
「それで開き直れたらいいんだけどね」
「私は、勉強なんて一生ものだと思ってるから」
「何それ、すごい!」
 私は驚く。
「すごい? そんなことないわ」
「だって、一生勉強するつもりでしょう?」
「それの、どこがすごいの?」
「あなたは、一生勉強するつもりなんでしょ? 私なんて、できたら今すぐにでも勉強なんてやめたいくらい」
「やめて、それで終わりならね」
「どういうこと?」
「卒業して就職しても、社会人として勉強はしないといけないでしょ?」
「うーん、そうか……。そうなのよね」
「だから、学ぶことをやめることは出来ないのよ」
「なんだか、頭が痛いなあ」
「そんなに難しく考えることはないわ」
「そう言われてもね……」
「じゃあ、言い方を変えるわね」
 彼女が言う。「あなたは、どうして本を読んでるの?」
「どうしてって言われても、ただ好きだからとしか……」
「どうして、好きなのかしら」
「好きなことに、理由がいるの?」
「面白いとか、ためになるとか、色々あるんじゃない?」
「ためになるかどうかって言われたら、よく分からないな。面白いというのとも、ちょっと違うような気がするし」
「自分で考えてみるのよ」
「うん……」
 私は言われたとおり、考えてみる。
 元々本は嫌いな方ではなかったが、こんなに詰めて読むようになったのは中学生以降のことだ。何となくクラスで浮いてしまって、暇をもてあまして図書室通いをしたのがきっかけだと思う。それでも、その時はまだ暇潰し程度の感覚だったはずだ。それに、今だって読書が好きで好きでたまらないというほどではない。
 結局は中途半端に惰性で読んでいるといった感じになる。
「好きなだけじゃ、ダメなのかな……」
 私はぽつりと言った。
「あまりにも分かりきっているから、却って分からないと思えることもあるわ」
「そういうことなのかなあ」
「時間があるときに、じっくりと考え直してみるといいわ。これは、私が言うべきことじゃないから」
「うん。そうよね……」
 私は空になった缶を弄びながら言った。
作品名:黄昏クラブ 作家名:泉絵師 遙夏