黄昏クラブ
罫線のあるノートに書くわけにもいかない。小学生でもあるまいし、無地の帳面など持ち合わせてはいなかった。
私はおもむろに立ち上がり、職員室へと向かった。コピー用紙をもらうためだ。近くの文具屋で無地のノートを買ってもいいのだが、わざわざ自腹を切るのも馬鹿々々しい。顧問の村松先生に頼んで十枚ほどもらい、再び部室に戻った。
真っ白い紙を眺めながら、頬杖をつく。そもそも文集に合うイラストとはどんなものだろう。しばらく思案した後、私は立ち上がった。椅子の上に乗り、書棚の上にある段ボール箱を引っ張り出す。箱には『冊子・過去分』と太マジックで大書きしてある。
まさか過去のものをそのまま使うつもりはないが、どのような感じのものがいいのか参考にするために、数冊を取り出す。
この判断が良かったのか悪かったのか。おそらく悪かったのかも知れない。適当によさそうな表紙絵のものを選んでみたのだが、その内容にすっかり引き込まれてしまったからだ。
たとえ弱小クラブではあっても、やることはやってきた文芸部の気概のようなものを感じさせられた。
気づけばいつもの見回りの時間。
今日の先生は、男子体育の先生だった。名前は知らない。
「おう。ここも学園祭の居残りか?」
静かな文化部部室が並ぶ一角には似つかわしくない大声で、快活に体育教師は言った。
「はい」
「いいな! 青春だなあ」
「はあ」
私は大きな声が苦手だ。
「青春するのはいいが、時間は時間だ。早々に帰れよ」
「はい」
必要以上に大きな音を立てて扉を閉め、体育教師が出てゆく。
どうして体育の男の先生は、こうも傍若無人なんだろうと、私は閉じられた扉を見つめた。
「さてと」
私は席を立つ。読みかけの冊子を鞄に入れ、帰り支度をする。
「あ、そうそう」
はからずも稲枝に見つかってしまった落書帳も一緒に。もう、あんな恥ずかしい思いはしたくはなかった。