黄昏クラブ
そう言えば、夏休み前に、隣のクラスの子の親戚が突然死したとかどうとか。このところ増えてきた突然死は、時間を合わせることが出来なくなって起こるのだろうか。そうだとすれば、自分の時間だけに焦点を合わせていたらいい子どもは気楽だともいえる。もっともそうでない子どももいることは知っている。楽しい子ども時代ならまだしも、虐待などを受けている子にしてみれば、それは無限の責め苦にも感じられることだろう。
考えれば考えるほど沈んだ表情になる私に、彼女が言う。
「考えるのは、大切なことよ。でも考え過ぎはよくないわ」
「うん……」
「あなたは、優しいわね」
彼女が言った。
「私、優しくなんてないよ」
「そう?」
「自分勝手でわがままでマイペースで」
「それで、いいんじゃない?」
「いい……の?」
「それが分かってるなら」
「うん……」
無言の時が流れる。彼女はしばらく私の様子を窺うように、さりとて監視するようでもなく、目をすがめていたが、私は視線を自分の膝に落とすばかりでそれには気づかなかった。
「私、帰る……」
どれくらいの沈黙が続いたのか、私は椅子を引いた。もう、いい加減遅くなっているはずだ。
「そうね」
彼女は微かな笑みをたたえて言った。「それがいいわ」
床に置いた鞄を取り上げる。
どこか熱に浮かされたように、頭の芯が疼いている。半ば朦朧としたまま、私は「じゃあね」とだけ言って、廊下へ出た。
校舎を出て正門前にまで来てから、彼女は帰らないのだろうかと訝しんだ。正面ファサードの時計を見上げた私は、そこでまたしばらく佇むことになってしまった。
それを見た時、私は時計が壊れてでもいるのかと思った。おもむろに自分の腕時計を確認してみると、同時刻を指している。
見回りの時間は概ね五時前後だ。なのに、時刻はまだ五時を数分回っただけだった。
彼女と過ごした時間は十分十五分ではきかないはずだ。それとも、今日だけ見回りが早かったとでもいうのか。
おかしなこともあるものだと首をひねりながらも、私は帰途に就いたのだった。