北へふたり旅 36話~40話
北へふたり旅(40) 第四話 農薬⑥
「しみじみ呑むときは、日本酒にかぎる。
もう一杯いこう」
Sさんの手が四合瓶(720ml)へ伸びる。
四合瓶は群馬の地酒、赤城山(近藤酒造)の男の酒辛口。
冷えた男の辛口。Sさんの大好物だ。
キンキンに冷えた酒は継いだ瞬間、グラスを白く曇らせる。
「こいつがなんとも旨い」
口元へ運んだSさんが、冷酒をいっきに胃袋へ流し込む。
「Sさん。味わって呑んでください。品がありません」
「余計な世話だ。これがおれの流儀だ。
むかしから、2級ばかり呑んできた。
チビチビ呑むのはどうにも性に合わねぇ。
酒はこうやって胃袋へいっきに流し込むのが、一番だ」
1992年4月。それまでの日本酒の級別制度が廃止になった。
級別制度は、日本酒を特級・一級・二級とランク付けしたものだが、
大蔵省がついに不備をみとめた。
「特級酒は優良」「一級酒は佳良」。ここまでの区別はわかる。
問題は「それ以外のものは二級酒」と規定したことだ。
酒は政府の級別審査に出品し、審査を受ける。
合格すると「特級」か「一級」。
しかし。合格したもの以外はすべて「二級」扱い。
作品名:北へふたり旅 36話~40話 作家名:落合順平