芽
「お父さん、この本面白かった」
「なんだ見つけちゃったのか。お前が二十歳になったら渡そうと思ってたんだがな」
「そうなの?」
「そうさ、それはお父さんの親友が書いた本でな、もう随分前に亡くなったんだが今でも彼より面白い本を書く人はいないと、お父さんは思う」
「ふーん。でもこの本さ、なんか中途半端な終わり方してるね、続きとかないの?」
「ふふ、その続きはいつか分かるさ。なんならお前が書いてもいいんだぞ」
「よくわかんないけど、私書いてみるね」
男の娘は、部屋に戻るや否や机に座り自由帳に文を綴りだした。まだ中学生にも満たない幼い子が一生懸命に文を綴る様を見守る父は、ただただ涙を流し、かつて遂げられなかった自分の思いを娘に託すのだった。