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ミゾロギなんとかが言うような「記憶障害の影響」なんてバカな話のわけがない。10万のカネがどうしても必要で、詐欺をしてでも手に入れなければならなかったのだ。
 
絵が一枚8万円――現在の額で単純に100倍として800万――で売れるけれども、それを描くのに一千万円必要とする人間の心情というものは、余人にはとても窺い知れない。けれどこのときの平沢は確かにそうだった。絵が8万で売れても多くを画商に取られ税務署に取られで、自分の元には大して残らないのかもしれない。にもかかわらず、一流の画家でいるにはただそれだけで、あれやこれやと多くの〈税〉を取り立てられるものかもしれない。
 
平沢の支出は収入を上回っていた。それは裏付けの取れてることだ。
 
帝銀事件のあった48年1月末には確かに日本橋・三越で日米交歓会があり、平沢も絵を出展していたという。だがこのとき、平沢は150円の会費が払えず、「来る途中でスリに遇った」と言い訳している。
 
三菱銀行中井支店でカネを盗れずに終わったからだ。
 
それが1月19日のことである。だからもう、こうなったら毒を使うしかないと思った。猫イラズではダメだ。青酸カリだ。それならば、手に入れられぬことはない。
 
致死量の半分ならば死なないだろう。それでうまくいくだろう。そう思った。致死量は、その薬を手に入れたとき10ccと聞いていた。だから1月26日、〈帝銀〉では5ccずつ計って飲ませた。
 
 
命を奪うつもりはやはりなかったからだ。床をのたうちゲーゲーと吐いてくれればそれでよかった。
 
けれど同時に、たぶん思ってもいただろう。いっそ全員死んでくれれば、自分の顔を覚える者はいなくなってくれるのだから、と――。
 
 
まああくまで想像ですが。そんなわけでよろしければ次の作を。題はこんなですけれど、実はこいつも強盗が未遂で終わる話です。
 
銀行強盗のしかた教えます [電子書籍版]
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作品名:端数報告 作家名:島田信之