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あらためましてドーブラエウートラ。おれとしては皆様によく考えてほしいわけだが、この一件、セーチョーの『小説』から引用したように怪しまれて巡査を呼ばれているのである。まあもしこれが本当に予行で、やったのがその諏訪中佐というやつだとして、GHQの指図でやったことなんだとしてみよう。予行だからその薬は正露丸でも水に溶かしたものであったということにする。
 
やってみて、薬を飲ませることにはまあ成功した。けど、だからって、3ヵ月に本番をやろうという話になるか? なんで本番は3ヵ月なんだ?
 
成功したなら、本番はすぐにやればいいだろうが。ってゆーか、巡査を呼ばれたのなら、本番はやめようという話にならんのか。
 
「ちょっとこいつはヤバ過ぎますよアンドーナツさん。別のやり方を考えましょう」
 
という話になって良さそうじゃないか。翌1月26日の〈帝国銀行椎名町支店〉では確かに成功している。だがこんなのを結果論で考えて物を言うのは間違いだろう。失敗する可能性もあったはずじゃないのかよ。
 
そのときどうする。毒を飲んでくれなくて、またやっぱり警官を今度はふたり呼ばれてしまうかもしれない。うちひとりが事実を確認しに行く間、もうひとりがその諏訪中佐をじーっと見続けるかもしれない。諏訪が「あなたも飲んで」と言って湯呑みを差し出せば、その警官は言うだろう。
 
「なぜ私までそれを飲まねばならないんですか」
 
と。そこで完全に怪しまれ、「事実の確認が取れるまでその薬は絶対に飲むな」という話になったら、本番はそこでおしまいだ。
 
諏訪は逃げようとするだろうが、まあ無理だね。捕まる。いや、NOVA女教師リンゼイ・ホーカー殺しの市橋達也のように案外逃げてしまえるかもしれないけど、その際に、毒のビンは放り出してくしかないだろう。
 
そこで調べてみたところ、
 
「こいつは普通の青酸カリとかじゃないですね。何か特殊な青酸ですよ」
 
なんてことになってしまうとすべてがアジャパーだ。GHQのアンドーナツは、そうなってしまう可能性をまったく考えなかったのか。
 
予行からそのときまでに3ヵ月もあったのに。そうなる場合を全然検討しなかった? 軍の秘密機関の者が?
 
有り得ない。そんな話はおれには到底有り得ぬこととしか思えない。これが実験とするならば、それはきわめて危険なゲームだ。軍の秘密機関がヤバいことを企むとき、どうするかというのをある冒険小説の名作から引用しよう。
 
   *
 
 単純明快なアイディアを見て、SISが微細な点にわたっては非常に優秀だったことを思い出した。連中が犯すのは大きなミスだけだ。
 (略)
 一応確かめておくつもりで訊いてみた。「これは何級情報だ?」
「じゅうぶん信頼できるよ」ジャッドが答えた。
「そんなことを訊いちゃいないよ。空軍から借りて来た青二才を相手にしてるんじゃないぞ。何級だ?」とおどかしてやった。
「二級だよ」
 二級情報というのは、連中がそうとう確実視しているが、自分達で直接確認はしていないという意味である。(略)
 私はゆっくりとうなずいた。連中は何から何まで計算ずみなのだ。失敗の場合の損失を最小限にすることも計算に入れている。ただ問題は、その損失の一つに自分がなりそうなことである。
 
アフェリエイト:もっとも危険なゲーム(中古本)
 
カーッコいい! どうすか皆さん、カッコいいでしょ。ギャビン・ライアル、もう最高! というわけで、イギリスのSISがこうあるように、アメリカのOSSがことが失敗に終わったときの損失を計算しないなんて話はおれにはまったく信じられない。だからこの〈安田銀行荏原支店事件〉というのが予行練習なんて話はバカバカしいと考えるのである。もちろん、本番の帝銀事件が〈連中〉の実験だったなんていうのもてんでバカらしい。
 
としかおれには思えません。でもまあ、ギャビン・ライアルでおれがいちばん好きなのは『本番台本』なんだけどね。電子書籍化希望!
 
というわけで、こちらの作なんかもどうぞよろしかったら。競馬の馬券を買う話ですが、外れるとわかってるから安全です。
 
絶対外れる馬券術 [電子書籍版]
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作品名:端数報告 作家名:島田信之