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白久 華也
白久 華也
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九死に一生

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第3章 事故当日~他にもたくさんの書類にサインする~

 

 時計を見ると翌午前1時を回っていた。
 が、まだ説明や書類へのサインが続く。その多くは事後承諾で、形式的なものだ。
 手術同意書、麻酔同意書、入院診療計画書、ヨード造影剤を用いるX線7画像検査に関する同意書および問診票、血液製剤に関する同意書、行動制限(抑制・拘束)に関する説明と同意書、鎮静剤投与に関する説明と同意書、などなど。

 いくら私がかつて医療系の大学に学び、多少そちら方面へのアンテナが常に向いていて、平均的な日本人よりは医学知識があるとは言っても、しょせん、医師でも看護師でもない。これらの同意書については大体わかるのだが、こんなに重症の患者がどうやって治療されていくのか、見当もつかない。
 なんとかこの時点で理解したことは、切り開いたお腹はまだ縫い合わせてないということ。止血したが、まだ再出血するかもしれないので、ちゃんと血が止まったか確かめて、明日か明後日、お腹を縫い合わせるということ。
 脾臓は取り除かれたが、免疫力が普通より低くなるものの、生きていくことができるということ。
 あちこちの骨折はこれから追々、何度かに分け、手術で正しい位置に固定すること。
 今は口から気管につないでいる人工呼吸器を2,3日うちに気管を切開してつなぎ変えること。無意識に暴れて管を外してしまうようなことがあれば、命にかかわるため。
 くも膜下出血と首の骨が折れているので、障害がどの程度残るかわからないこと。
 せっかく一命をとりとめているが、動けないので脚などで血流が悪くなり、血栓ができて、いわゆるエコノミークラス症候群と同じことが起こりうること。

 それでも、これだけ厳しいことを突き付けられても、不思議と絶望はしなかった。
 どうなってしまうのだろうとは思ったけれど。 
 ここは、日本の最高峰の救急医療が受けられる病院のひとつ。
 そして、Rは恐ろしく悪運が強い子なのだ。

 明日、と言ってももう今日だが、売店で準備しなくてはならないものを看護師から指示されて、あとはもう、ICUに入り浸るわけにもいかず、病院を出たのは午前3時過ぎだった。
 どこかに泊まろうにも今からでは…生まれたての乳児のいる娘の所に転がり込むのもこの夜中でははばかられた。朝になればやらなくてはいけないことが山ほどあるし、結局、先ほど来た道とは反対側の出口から出たら、大通りの向こう側にコンビニがあったので、少し食料と飲み物を買って、その駐車場で仮眠した。

 少しうとうとしたら、白々と夜が明けた。





 
作品名:九死に一生 作家名:白久 華也