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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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川の流れの果て(1)

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ある男があった。この話はそのある男について書いているようで、またそうでないようでもある、呑兵衛の独り言のようなものだ。



その男は突然、この些細な一膳飯屋、「柳屋」に現れた。「柳屋」は、どこもかしこも人でごった返して芋を洗うような江戸の中、永代橋の袂にある店であり、今の主である吉兵衛の五代前から続いている飯屋で、深川も近く人通りの多い場所にあるので繁盛した。

店主の吉兵衛は卒のない、人当たりの良い人物で、それで却って損を出しても笑っていられる、心の広い男であった。そして、困っている者を放り出すことは絶対にせず、自分が食いっぱぐれてでも、仕入先の魚屋などには晦日の払いはきっちり済ませた。

吉兵衛の女房は亡くなっており、名をお染と言った。少し気は強いが吉兵衛には優しく、働き者であったお染は、それ故に体を壊してもなかなか言い出さずに、とうとう倒れた時には、もう手の施しようがないと医者は皆痛ましそうに首を横に振った。


お染の亡くなる時分には一人娘のお花は十四になっていて、前から時折店を手伝ってはいたが、母亡き後は立派に店の給仕として、毎日きりきり舞いの日々を過ごしていた。

お花は父親に似たのかとても優しい子で、虫を殺すのも嫌がるほどだったが、気が弱いので始終びくびくしており、膳を運ぶお花の背中を、吉兵衛はいつも心配そうに追うのだった。

「柳屋」は大きくはなかったが小さくもなく、土間に床几が三枚と、畳敷きの座敷が衝立で二つに分けられていた。そこへ酒を飲みに来る近所の男達、江戸見物のついでに騒ぐ田舎者、「おかずをちょうだいな」とやって来る女連中など、様々な客達が入り乱れて噂などしていく。



誰も彼もが忙しく、働いたり飯を食ったり、酒を飲んだりしている横で、隅田の流れは変わることなく、時折溢れそうになって江戸の者を怯えさせる時以外は、ただ横たわっているのであった。





その日は、江戸らしい真夏であった。町の中で淀んだまま行ったり来たりしているような風がむっとして纏わりつき、陽光で目も眩むようであったが、暮れ近くにはようやく風がいくらか冷たくなって、吉兵衛は店先の行灯と提灯に火を灯していた。

店には、軒下の床几に掛けて大川の葦のさざめきを聴き、物憂げに酒を飲んでいる四十を過ぎたような男と、それから、座敷にはそれぞれに持ち寄った話と吉兵衛の旨い料理を肴にする、職人の連れが三人居た。