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やまぐちひさお
やまぐちひさお
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キャンディーしかないお菓子屋さん 第一話 同級生キャンディー

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【その1】

担任の青木先生から出された宿題を前に小学校4年生の葛城美衣子は椅子の上に
あぐらをかいていた。そして、腕組みをしながら今日46度目の溜め息をついた。
「あー疲れた。休憩っ!」
みいこはさっきから休憩ばかりしている。前の休憩の時などは親友のカナコと電話で四十分も話していた。その時も二人の話題は青木先生の悪口ばっかり。
「ホント、超むかつくよね青木バアは」
「そうだね。特にみーこは勉強が嫌いだかんね」
「そんなの好きな奴なんてどうかしてるんだよ」
「でもまあ勉強するのが私たちの仕事みたいなもんだからね」
カナコはいつも、母親の口癖をまるで自分の意見のように口にする。
「カナは出来がいいからそんな簡単に言えるんだよ。あたしなんか毎日汗タラタラもんでこなしてるんだからね。まったく先生は気楽でいいよ。自分で考えた宿題をみんなにやらせるだけなんだから。先生にはストレス解消になって、生徒にはストレスの元になるなんてほんっと不公平よ」
そんな会話を延々40分も続けていたのだ。ようやくカナコとの電話を切ってからまた宿題にとりかかり、まだ18分しか経っていない。
「ちょっと気分転換のお散歩にいって行ってこようっと」
みいこはお母さんに出かけてくると一言声をかけて表に飛び出した。近くのコンビニへ行って大好きなキャンディーを買うつもりなのだ。本当は一人で買い食いしたらお母さんに叱られるのだが(今日はストレスが溜まってるからいいの)なんて勝手に決めて、お小遣いを少しポケットに入れてきたみいこであった。
家を出てまっすぐに坂を下ると商店街の通りに出る。それを左に曲がって三分くらい歩くと左手にいつも行くコンビニがある。
途中で顔見知りの八百屋のおばさんや、魚屋のおじさんが声をかけたが、みいこは脇目もふらずにコンビニを目指してズンズンと歩いていく。なんといっても今日のみいこにはストレスがいっぱい溜まっているのだ。
タバコ屋を通り過ぎてコンビニが見えてきた時に、そんなみいこがピタリと足を止めた。
目の前に全身灰色で目だけが金色のネコがみいこを見上げてちょこんと座っていたのだ。ネコが大好きな彼女は思わず立ち止まってしまった。どうやらストレスよりもネコの方が強かったようだ。
みいこは最近たまに見かけるその灰色ネコを抱き上げようとネコの前にかがみこんだ。するとそのネコが『おいでおいで』という具合に右の前足をクリクリッっと動かすと、背中を見せて歩きだした。もしかしたら灰色ネコはただ顔をこすっただけかも知れないが、みいこの目にはカモーン!って見えた。
ネコはコンビニの手前の路地をトントンと左に曲がって行く。
みいこもその後に続く。
路地に入ってから気付いたのだが、みいこは今までこの路地に来た事がなかった。両側には家の裏側らしい塀が続いている。あんまりキョロキョロするとネコを見失うので、みいこは周りを見るのをやめてネコを追いかけた。
少し行くと2メートルくらい先を歩いていたネコが右側の塀のはずれをスッと曲がって見えなくなったので、みいこはあわててその場所まで駈けていった。ネコが消えたと思った場所には一軒の小さな店があるだけで道はなかった。ネコはその店に入ったらしい。
店はちょうどみいこが二人並んで両手を広げたくらいしか間口のない小さなお菓子屋さんだった。ずいぶん古ぼけたお菓子屋さんで、誰もお客さんはいない。外に比べると店の中はずいぶん暗くて奥の方がよく見えなかった。
みいこが恐る恐るお店の中を覗き込むと、店の奥の暗いところにネコの金色の目が一対キラリと光った。だがその目はずいぶん高い位置にある。みいこが不思議に思って見ていると、おばあさんが一人、さっきの灰色ネコを抱いて奥から出てきた。おばあさんが抱いていたからネコの目の位置がずいぶん高い所にあったのだ。
「いらっしゃい、みいこちゃん」
おばあさんが自分の名前を呼んだのでみいこは驚いた。
「おばあちゃん、どうして私の名前を知ってるの? 前に会った事あったっけ?」
「いいやないよ。でもわしにはわかるんじゃ」
「うっそー、誰かに聞いたんでしょ」
おばあさんはニコニコして何も答えない。
「そう、僕が教えたんだよ」
男の子の声が聞えたのでみいこは驚いてまわりを見回した。
「なにきょろきょろしてんだよ。僕はここだよここ」
なんとおばあさんの抱いた灰色ネコが前足で自分の鼻を指差して話しているではないか。
「なんだ、あんたネコじゃない。ネコのくせにしゃべったらダメよ。だまってなさい」
「い、いやそう言われても…」
「だめだよ。ネコのくせに口をきくなんて生意気よ」
「そんなひどい事言わなくてもいいじゃないか。僕だって話したいんだからさぁ」
「うるさいっ」
「チェッ、なんだかがっかりだな、驚くと思ったのに」
「ネコがしゃべるのにいちいち驚いてたらディズニーランドなんか行けないわよ。ねずみだってしゃべるんだから。それにねずみのくせに犬をペットにしてるんだよ」
みいこたちの会話を聞いていたおばあさんはおかしくなってクスクスと笑いだした。
「ねっ、おばあちゃんもそう思うでしょ?」
 みいこは同意を求めるようにおばあさんを見た。
「おばあちゃん何とか言ってやってよ。ホント可愛いくせに気が強いんだから」
灰色ネコはそう言うと、困ったような顔をして前足の裏のプヨプヨした部分でおばあさんのほっぺたをペタペタとたたいている。
「あはは、お前の負けじゃよ慎之介」
「でもさぁ…」
「驚かしてすまなかったなみいこちゃん。こいつは慎之介っていう名前でな。まあ今はネコをやっとるが、もともとは人間をやっとったんじゃ」
「ふうん、人間やってたから生意気なんだね。最初っからネコやってればよかったのに」
「んもぅ…」
「まあまあ、そうせめてやるな。こいつにもいろいろ事情があってな」
 おばあさんは苦笑した。
「ねえ、ネコの慎之介。あんた私のこと呼んだでしょ。ついて来いって」
「ああ呼んだよ。君にお願いしたい事があったんだ」
慎之介と呼ばれたネコは少しふてくされている。
「なに? 背中のノミでも取れっていうの?」
「違うって、僕を助けて欲しいんだよ」
「助けるって、あなたを何からどうやって助けるのよ」
「キャンディーを食べて欲しいんだよ」
「キャンディー? そりゃああたしはキャンディーが大好きだけど、どういう事よ?」
「ただのキャンディーじゃないんだ。このおばあちゃんの特別製のキャンディーなんだよ」
「なによあんた、このお店の広告キャラかなんかなの?」
「違うよぅ。おばあちゃん特別の魔法のキャンディーなんだよ」
「魔法のキャンディー? そういえばこのお店、お菓子屋さんみたいだけどキャンディーしか置いてないのね」
みいこはさっきから思っていた事を口に出した。
「ああ、昔からキャンディーしか置いてない。全部わしの手作りじゃ」
店に並んでいるのはいろいろな色や形の大きなキャンディーだった。キャンディー好きのみいこも見たことがない種類のものばかりだ。どこのお菓子屋さんでもコンビニでも売っていないだろう。どれもキラキラと輝いてとてもきれいだ。
美味しそう、とみいこは思わず口にしていた。