小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

よ う こ そ

INDEX|14ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

(十四)幸せの青い空


 電撃的な結果を得たデートの日から、勲は日々の牛の世話に追われながらも、彩香との結婚の青写真を描き始めていた。
 そして二日後、まず家族に打ち明けることからスタートした。
 一同は、驚きと喜びという複雑な思いでそれを受け止めた。
「え! 父さん、ホント!? ずっとおばさんといっしょにいられるの?」
 目を輝かせて喜ぶ春子に勲は言った。
「そうだよ、いっしょに暮らすんだよ」
 茂が続けて言った。
「春子、もうおばさんじゃなくてお母さんだよ」
 すると春子の目から大粒の涙が溢れ出し、喜美子に飛びついて泣き出した。
「春子や、そんな喜び方があるかい。まあ、ずっと我慢してたんだろうね。でも、勲、いったいあの人とどうやって暮らすんだい?」
「ま、いろいろ考えているところだよ。今日の所はここまでにしておくさ」
 
 
 翌日、春子は学校帰りに彩香の所へ行ったまま戻らなかった。彩香から春子を今夜預かってもいいかという連絡を受けた貴美子は、牛舎の勲に聞くまでもなく了解の返事をした。
 それから毎週末、春子は彩香の元で過ごすようになった。
 
 そんな週末の晩、茂がこんなことを話し始めた。
「父さん、僕、春子と違って、死んだ母さんのことよく覚えているんだ」
「まあ、そうだろうな。お前はもう八歳だったからな」
「だから、春子のようにおばさんのこと、すぐにはお母さんとは呼べない」
「いいさ、今のままで。彩香さんだってわかってるよ」
「ごめん」
「何も謝ることなんてないさ。
 ああそうだ、今度みんなで母さんの墓参りに行こう。彩香さんがお参りしたいそうだ」
 
 
 次に勲が出た行動は、地区の集会でこのことを公にすることだった。いつもの集まりの終盤で、勲は立ち上がって話し始めた。
「みんな聞いてくれ。去年の夏、新聞広告に花嫁募集の広告を出したことをここで報告した。そして、みんなも知っての通り、彩香さんがやって来た。みんなに温かく迎えてもらい、仮住まいとはいえ地区の住民になった。
 でも、俺が望んだのは花嫁だ。そして、今回彩香さんもそれを受け入れてくれた。俺たち、結婚することになった」
 
 一同はポカーンと口を開けたまま、しばらく勲を見つめていた。そして、正夫がやっと声を出した。
「勲、おまえ今なんてった? 彩香さんと結婚? ありえないべ」
「そうだよ、あちらは芦屋のお嬢さま、ここへは別荘を建てて遊びに来ているだけだろ」
 ほかの連中も、そうだそうだと言わんばかりに首を縦に振っている。
「とにかく、みんなには伝えたからな」
 そう言うと勲は集会所を後にした。
「勲、本気だべか?」
「彩香さんは本当に承知したんだろうか?」
「すっかり、酔いが冷めちまった。今日はもう解散すっべ」
 
 
「彩香さん、昨日、村のみんなに俺たちのことを伝えたよ。面白いくらいみんな驚いていたけど、無理もないか。そして今日はこれからのことを聞いてほしいんだ」
 牛たちを正夫に頼んで、勲は軽トラに彩香を乗せ近くの小高い丘に来た。ここは去年、初めて彩香がやって来た時に訪れた思い出の場所でもあった。
「勲さん、その前に私の話を聞いてもらえませんか?」
 いつもおとなしく勲に従い、やさしい笑みを浮かべる彩香が珍しく勲の話を遮った。勲は自分でも驚くほどドキッとした。まさか、気が変わった、なんてこと――
「住む場所のことですけど、今の勲さんのお宅の隣に新しく家を建てて、みんなで暮らせたらと思うんですけど、どうでしょう?」
 な~んだ、あまりにことが思い通りに運ぶのが、どこか不安を感じさせるのだろう。彩香の心を、彩香自身を信じ切れていない自分を勲は反省した。
「もしお母様が今のお宅がいいようでしたら、すぐお隣ですし、お母様にどちらでもお好きな方を選んでいただければと」
「聞いてみますけど、ただ……」
「何か?」
「いや、その……」
「費用のことでしょうか?」
「たしかに今の家に彩香さんに来てくれとは言えません。でも、だからと言って、家を建てるとなると……。私としては大変申し訳ないが、当面は現在のまま、つまり彩香さんにこちらへ通っていただくという形を考えています。男としてこの状況で結婚を申し込むというのは無茶かもしれませんが、どうしてもあなたを伴侶にしたかった」
「勲さん、お金のことは夫婦になればどちらが出しても同じことではないでしょうか? これからは経済的なことで、私に負い目など持たないでください。
 確かに、両親が残してくれたおかげで私はこれまで十分な暮らしをさせてもらってきました。でも反面、それがどうしても人様の目についてしまい、見えない壁ができてしまうような寂しさをずっと感じてもきました。
 ところが勲さんは、そんな私の環境ではなく、私自身を時間をかけて見てくださり、その上で私を求めてくださいました。私も、朴訥(ぼくとつ)とした勲さんは頼もしく、いつもそばにいてほしいと強く思うようになりました。
 それから、素直でかわいい子どもたち。今まで一人だった私に家族ができます。成長していく子どもたちの姿を間近に見ることができるのが、今からとても楽しみです。そして、今までご家族を支えてこられたお母様を大切にしたいと思っています。
 どうか末永くよろしくお願いいたします」
 澄みわたる青空のもと、思いもよらぬ彩香の告白だった。

作品名:よ う こ そ 作家名:鏡湖