北へふたり旅 21話~25話
「ちくしょう・・・俺の説明が悪かったのか・・・
それにしても大丈夫かな。
ここまで葉っぱを取ると、あとで曲がりが出るかもしれねぇな」
キュウリは曲がりで等級がかわる。
1㌢以内の曲がりはA品として流通するが、それ以上はB品になる。
味は同じだが曲がり具合で評価が変わる。それがキュウリの運命だ。
秋キュウリは長期取りする。そのためひんぱんに摘葉をおこなう。
一回の摘葉を2~3枚。
しかしこれでは、いかにも効率がわるい。
そこで研究がおこなわれた。
さいきんの研究で主枝葉が25枚以上になったら、いちどに5枚以上欠いても
問題ないという結果が出た。
しかしほとんどの葉をいちどに欠いてしまう例は、聞いたことがない。
「万事、こんな調子なんだ。
連中に悪気はねぇ。それは俺にもわかっている。
だがよ。どうにもあいつらと、コミニュケーションがとれねぇ。
もうすこし日本語を覚えてくれると、楽なんだがなぁ」
「Sさん。3年はあっという間です。
日本語が上手になる前に連中の滞在期間が、時間切れになりますよ」
「だから、5年に延長したのかな、日本の政府は。
実習生たちの滞在期間を」
「5年にのびても、たぶん結果はおなじでしょう。
来日前に一ヶ月。来日してから一ヶ月。
2ヶ月の詰め込み授業で習得できるほど、日本語は甘くない。
義務共育で9年間も勉強してきた日本人だって、
あやしい日本語をつかってます。
世界で一番難しい言語、それが日本語だと思います」
「そうだよな。
同じ言葉でも意味が違うのは、日本語くらいだ。
楽に労働力が確保できると考えていた俺が、あさはかだった。
外国人実習生とのコミニュケーションは、予想以上にしんどいものがある。
だいじょうぶかな。
こんなことで3年間も持つのかな。俺の精神力が」
「Sさん。
試験に合格すると、かれらの滞在期間は最長5年伸びますよ」
「あっ・・・そうだ。
思いだした!。法律が変わったんだ。
まいったなぁ・・・いてて。急に頭が痛くなってきた」
(26)へつづく
作品名:北へふたり旅 21話~25話 作家名:落合順平