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教えて泥棒さん.あなたは自分からは何を盗むの〜【唐草三五郎】

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<起~唐草三五郎>

唐草三五郎は どろぼうです。ちょっと変わったどろぼうです。

三五郎の盗むものは、決まっています。お金や宝石というものではなく、その人だけの宝物。いつもあるので、宝物であることを忘れてしまっている大切なもの。

三五郎の名まえが あまり知られていないころ、人々はのんきに言っていました。

「おかしな どろぼうが いるものだね」
「大切なものがわかるのなら、一度、盗んでもらいたいものだわ」などと。

世界一の大金持ち、リッチェストさんも、そんなのんきな人の一人でした。
リッチェストさんは、ほほをタフタフふるわせながら言いました。
「いつもあるから忘れているものとな。そりゃ、やっぱりお金かの。たくさんありすぎて、どこの銀行に、どれだけあるかも よく知らない」

そんなリッチェストさん、ある朝、服を着ました。
いつものように上着のポケットに手を入れ、時計のゼンマイをぐりぐりとまわす・・はずでした。
でも 時計はなく、かわりにあったのは、唐草模様の小さなカード。

黒い墨で、文字が書いてありました。
・・あなたのお宝、ちょうだいしました~唐草三五郎

リッチェストさんは、曾爺様からもらった懐中時計を盗まれてしまったのです。
心に、ぽっかりと穴があきました。冷たい風が ピューと吹きこみます。
仕事なんか 手につきません。
すてきなご馳走を食べても、ぜんぜんおいしくありません。
子どものころから、いつもポケットにあった懐中時計・・・あるのがあたりまえ。大切ということを、すっかり忘れていました。

リッチェストさんは 同じ形の時計を、世界中から買い集めました。
でも、これまでについた傷やへこみはなく、チッチと刻まれる音もちがうものばかりでした。
それではと、何千人もの時計職人に、まったく同じものを作ってもらいました。写真を見せたり、音まで確認したので、出来上がりは まったく同じです。

でも、やっぱりちがいました。
あの時計だけがもっていた曾爺様の温もりは、どこにもなかったのです。

もちろん、盗まれた時計を放っておいたわけではありません。
お金に糸目をつけず、世界中の探偵はいうまでもなく、仕事をしていない普通の人や、どろぼうさえもやとって、探してもらいました。
でも、いつまでたっても、よい知らせは届きませんでした。

山のようにあったお金は、あれよあれよというまに減っていき、やがて、すべてなくなってしまいました。
リッチェストさんに残ったのは、お屋しきよこに広がる、牧場のはしにある小さな家だけとなりました。

この事件から、唐草三五郎の名まえは、世界中に知れわたりました。

「忘れてしまっている宝物。いったい、どうすりゃ 守れるんだ」
「気づいた時には遅すぎる。大切なものはもどらない」

だれもが、三五郎を怖れるようになりました。



<承~モエちゃんの手紙> 

さて、日本の とある小さな島に、モエちゃんという女の子がいました。
マシュマロパイが大好きなモエちゃんは、ある重大な秘密を知っていました。

それは、みなしごの赤ん坊だったモエちゃんを引き取ってくれた 優しい父さんの、もうひとつの名まえ。

お手伝いさんが休みの日に、父さんの部屋を探検していて知ったのです。
机の下にもぐりこんだ時に、ふと 上を見れば、おかしな箱がかくされていました。
あけてみると、ゾロゾロリ・・・
ニュースでおなじみ、唐草模様の小さなカードが、たくさん出てきたのです。

父さんの名まえは、いとうひろし。
でも、もうひとつの名まえは ・・唐草三五郎・・

モエちゃんには、どうしても知りたいことがありました。
ある日、島の岸辺にある郵便受けに、手紙を入れました。

・・からくさ さんごろうさんへ
「あなたは、じぶんからは なにをぬすむの?」
~ちいさなおんなのこより

次の日から、父さんは部屋にとじこもりました。
「うーむ、わからない」
うなり声が、ドアのむこうから聞こえてきます。

モエちゃんは心配になりました。
「お父さんは、大切なものがわからないんだ。このままでは、病気になってしまう」
そこで、手紙をもういちまい、そっと、ドアの下からすべりこませました。

・・からくさ さんごろうさんへ
「もういいです。じぶんのたからものをぬすむなんて かんがえないでください」
~もういちどの ちいさなおんなのこより

でも、うなり声は消えません。どんどん、声が弱まってきているようです。
「わたし、なんてことしてしまったの。まさか、こんなことになるなんて」


モエちゃんは決めました。
「わたしも探すのを手伝ってあげる。きっと、あそこにあるにちがいないわ。一度だけ、連れていってもらったことのある 山の洞窟の中にある秘密の部屋に」

・  ・  ・

その秘密の部屋で、父さんは微笑みながら、ロウソクに火をともしました。すると、ガラスケースに入った様々なものが、宝石のように光って見えました。

「ここはなんの部屋?まるで、博物館みたい」
モエちゃんが聞くと、父さんはこたえてくれました。

「ここは、ぼくの宝物置き場。むかし事故で、家族がいなくなって、心が空っぽになってしまったことがあった。そんな時、ふと 母さんの叱り声を思い出したんだ。
【悪い事をしたら、宝物は、洞窟に飛んでいってしまいますよ】ってね。
ぼくは、ずっといたずら好きだった。だから、ここには宝物があるのでは!
そう思ってきたけれど、何もなかった。それで、あれこれ考えてね。ふっふ、いろいろ持ってくるようになったのさ。
おかげで、うまくいっているみたいだ。空っぽだった心に、だんだん、何かが入りはじめたんだ」

・  ・  ・

「あのガラスケースに入っていたのは、きっと、よその人の宝物。人から盗んできたものだけど、お父さんの宝物になったものが、あそこにはあるのだわ」

モエちゃんは、カメラと懐中電灯を持って家を出ました。
カメラを持ってきたのは、洞窟の中にあるものを写真にとって、父さんに見せてあげようとしたからです。

島をぐるりとまわって、山を登りました。茂みをかきわけ かきわけて、ぽっかりと黒い口を開いた洞窟にたどりつきました。

「光をのばして、どうか わたしを連れてって。お父さんの宝物のところへ」
持ってきた懐中電灯に、しっかりお願いしてから 中に入りました。

岩に囲まれた道は、ノッペリゴツゴツ、広くなったり狭くなったり・・ずっと奥まで続いていました。道が分かれているところでは、広い方に進みました。

てくてく とぼとぼ・・いったい、どれだけ歩いたことでしょう。
だけど、いくら歩いても秘密の部屋には、たどりつきませんでした。

やがて、懐中電灯は電池が切れて、あたりは真っ暗になりました。自分の手さえも、どこにあるのかわかりません。
モエちゃんは、洞窟の中で迷い、進むことも、もどることもできなくなってしまったのです。

「わたし、お父さんの宝物探し、手伝うことができなかった」
しーんと静まりかえった暗闇に、ポツン、涙が落ちる音がひびきました。

その時です。
ピカリとまぶしい光がさしこみました。