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ふしじろ もひと
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『封魔の城塞アルデガン』第3部:燃え上がる大地(前半)

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第3章:レドラス



 アザリアを乗せた馬車がレドラスの王城ドルンに到着したのは午後になってからだった。

 巨大な城だった。しかもまだ築かれて年数が浅いようだった。高さはさほどなく尖塔の類いも少ないが、巨大な切り株のような平たい形状からすれば屋上には巨大な空間を確保しているように見えた。見るからに奇妙な作りだった。
 王城はただならぬ雰囲気だった。武装した軍隊が城門から北へ続く街道に送り出されていた。しかもその規模や装備からすればこれは本隊の背後に置かれる補給部隊か予備兵団のようだった。本隊が出陣した後と悟ったアザリアは遅かったかとの思いに唇をかんだ。
 だが、王宮の中庭にはひときわ目立つ八頭立ての戦車が留められていた。豪華な装飾から一目で王の乗り物であるとわかった。近衛兵の姿もそこここに見られた。どうやら王はまだ城内にいるらしかった。
 警備兵から話をきいた近衛兵が城内に入った。状況からとても目通りがかなうとは思えなかったが、戻ってきた近衛兵は意外なことに、城内に入るようアザリアに告げた。


 鎧を身に付け帯剣して現れたレドラス王ミゲルは四十代半ば。中背で褐色の髪と灰色の目を持つ典型的な南部遊牧民族の特徴の持ち主だった。ここレドラスにおいてそれは支配者の証だった。しかしその風貌は満足を知らぬ貪欲さを見せつけるようだった。その目はむき出しの野望にぎらついていた。
「親書を携えてきたと聞いた。大儀である」
 ひざまづくアザリアの前で、王は近衛兵から親書を受け取り、ざっと目を通した。
「支援を我がレドラスに求めるというか。そなたイーリア側から国境を越えたと聞くが、かの国にも支援を求めたのか?」
 アザリアが首肯すると、ミゲル王の口元に意味ありげな冷笑が浮かんだ。
「まことに大儀である。我が誇り高き一族に遠く連なるその身で使い走りとはな。だが、それももはや無用だ。我らが洞窟の魔物など一掃してくれる」
「おそれながら、それはどういう意味にございますか?」
「我が偉大なるレドラスが誰もなしえなかったことをなす。ゆえに我が国にこそかの地を治める資格があるということだ」
 ミゲル王は声をあげて笑った。
「余は先代と違う。アルデガンやノールドの現状など知り抜いておる。もはや魔法の時代ではない。衰亡した実態に過去の幻影をまとわせ欺いているにすぎぬ。そなたがその白き長衣にて呪文を失った身をまとい欺こうとしているのと同じこと」
 アザリアは色を失った。そんなアルデガンに住む者しか知らぬはずのことを、なぜこのレドラス王が知っているのか!

 倣岸なる王はしばしアザリアの様子を面白そうに眺め、やがて言葉を続けた。
「見てのとおり我が国は取りこんでおる。本来ならば謁見どころではないのだが、使者がそなたであると聞いたからこそこうして会っておるのだ。そなたがおらねば戦支度をすることもなかったのだからな。光栄に思うがよいぞ、アザリア」
「……私がいなければ、戦をすることもなかったと?」
 ますますわからなくなった。この男はなにをいっている?
 侍従の耳打ちにミゲル王がうなづいた。
「もう少しそなたが惑うのを見ていたくもあるが、時間がないのでな。そなた、我が方を探りにきたのであろう? いや、隠さずともよい」
 アザリアが口を開く間も与えず、王は片手で制した。
「余は感嘆しておるのだ。さすが我が民族の血を引く者、大した胆力とな。そなたが恭順を誓うなら処遇を考えてもよいのだぞ。偉大な民族の一員たるそなたのような者が命運尽きたアルデガンになど身を置く意味はありはせぬ」
 ミゲル王は再び笑い声をあげた。

「来るがいい! 我がレドラスの大いなる力を見せてやる!」