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ふしじろ もひと
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novelistID. 59768
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『封魔の城塞アルデガン』第3部:燃え上がる大地(前半)

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 だが人間の殺し合いも相手を排除して自分たちが置き換わろうとするものばかりと我には見える。それでは種族としての自らを律する行為とはいえぬ<
 魔物が大きく翼を広げると全身がまばゆい光に包まれた。洞窟全体が凄まじい力の場に包まれたのをリアは感じた。
>いずれにせよ、これは種族の域を越えた力だ。我は約定に従い洞窟のものどもを守る<
「……では、それでは地上のみんなはどうなるの?」
>炎に呑まれ全滅する<
 リアは絶句した。

>我が力はかの者の結界に阻まれている。地上までは及ばぬ<
 魔物の思念が告げるのをリアは呆然と聞いていた。
>かの者が死んだのなら結界をこじあけることもできぬわけではない。だがそれは約定に反する。それに強大な結界をそれ以上の力でこじ開けるのだ。それだけで地上は吹き飛んでしまう<
「そんな! なんとかならないの?」
>我がなんとかせねばならぬ理由があるか? 人の子よ<
 魔物の思念は不思議そうだった。
>汝が仲間に知らせればよいだけの話ではないか<
「私は……、私は人間じゃない……」
 リアは呻いた。
「決して地上に戻ってはいけない怪物なのよ」
>見たところ人間にしか見えぬ。話す限り心も人間のようにしか思えぬ<
 再び不思議そうな思念が返された。
>我には汝と人間の区別がつかぬ<
「わからないの? 私は魂に不死の呪いを受けた者なのよ」
 リアは魔物を仰ぎ見て叫んだ。
「私はこの魂を滅ぼしてくれるものを求めてここまできたわ。
 あなたは私の魂を滅ぼせないの?」
>汝のいうことはよくわからぬ<
 輝く魔物はとまどっているようだった。
>我にできることは燃やすか凍らせるかのどちらかだ。汝がいうこととは違うような気がするが<
「……では、この洞窟には私を滅ぼせるものはいないのね」

 リアは自分に問い掛けた。それなら洞窟に留まることはなにを意味するのかと。
 仲間に危害を加えることを自分はなにより恐れてきた。だから洞窟の中で滅びてしまいたかった。だが、それはできないことがわかってしまった。その上ここに留まることはアルデガンの仲間が全滅するのを座して見ていることでしかないことまでわかってしまった。
 ならば自分はどうしたいのか? 答えはすぐ出た。
「アルデガンから逃れさせたい! 誰も死なせたくない!」
 リアはもはや姿も見えないほどまばゆく輝く魔物を見上げた。その目にも激しい光が宿っていた。
「私がみんなに伝えるわ。ありがとう!」
 応えも待たずに身を翻し一目散に洞窟の通路を駆け上り始めたが、やがて心を挫かんとする姿なきものが追い縋ってきた。
---そんなことができると思っているのか---
 奈落からの声が囁いた。
---こんな話を誰が信じるのだ---
 逃れようといっそう足を速めた。
---人間でないおまえの話など---
 両手で耳をふさいだ。
---心だけ人間のふりをしてもむだだ---
 歯を食いしばった。牙が唇に触れた。
---牙持つ身でありながら何様のつもり?---
 ラルダの叫びに思わず呻いた。
---できるものか、できるものか、できるものか!---
 いまや洞窟全体に反響する巨大な声に抗いながら、リアは果てしなく続く洞窟を駆け続けた。