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ふしじろ もひと
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novelistID. 59768
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『封魔の城塞アルデガン』第2部:洞窟の戦い 後半

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「思えば元々は相手を痕跡も残さず滅殺する邪法に浄化と鎮魂の祈りを織り込んだのが矛盾というほかない行為だった。そのためこの技は術者に極端に正しい心と意志力を求めるものになったのだ。それゆえ解呪の技は、単に術式を身につけたからといって扱えるとは限らぬものになった。私も術式を修得できてはいても、いまだに発動させることができずにおるのだ」
 グロスの口調に苦いものが混じった。
「相手の存在を魂にいたるまで抹消しようというのに浄化と鎮魂を捧げる。これは吸血鬼としてのあり方は禁じるがもともと人間として生まれた魂は救済したいということにほかならぬ。だが、おおもとの術式はその魂を破壊しようというものであり、それが吸血鬼の不滅の肉体の呪縛を破る原理であるのだから無理があるとしかいえぬ。髪一筋でも心が逸れれば発動できず、おおもとの邪法に比べれば大きくその威力を削がれた術式。これが解呪の技の実態なのだ」

 アラードの脳裏に、ゴルツが焼け爛れた吸血鬼を滅殺したあの凄まじい光景がよみがえった。
「では、閣下がラルダの仇を滅ぼした、あの技はまさか!」
「そなたの話を聞く限り、正しい解呪の技の発動ではない」
 沈痛な面持ちでグロスが応じた。
「閣下はとうていきゃつの魂の救済などというお気持ちにはなれなかったはず。それでは普通なら解呪の技は発動せぬ。だが閣下の憤怒の念があまりにも強かったばかりに、本来の邪法としての形で発動してしまったものと私は見る。さもなくばそなたのいうような状況下で、そのような威力で吸血鬼を滅ぼしうることなどありえぬ!」
「では、さきほどおっしゃった禁呪の呪いというのは……」
 アラードの言葉にグロスは首肯した。
「幾重にも術式の中に織り込まれた宗教的な禁忌を、神に仕える身で侵したのだ。術者の心はただではすまぬ。愛娘を我が手で滅ぼした上にそのような痛打を心に受けて、見かけだけでも平静を保っておられること自体が奇跡のようなものだ。このうえ閣下が解呪の技を使われれば、もはや何が起こるかわからぬ!」
「だがいずれリアは戻ってくる。転化した身でいつまでも渇きにかられずにいるはずが……」
 いいかけたグロスの言葉がとぎれた。

「……まて。犠牲者がまだいないというなら、リアはなぜ転化を遂げた? アラード!」
 グロスは目を見開き、アラードに詰め寄った。
「そなた何か隠しておろう!」
 今度はアラードが動揺する番だった。

「……リアは、私を庇って瀕死の傷を負いました」
 アラードは言葉を詰まらせながらいった。
「耐えられませんでした、リアが失われるなんて。私のせいなのに……。
 それで、私の傷からしたたる血を……」
「そなた、なんという!」
 いいつのろうとしたグロスの言葉は、再びとぎれた。

「……今ここでそなたを責めてなんになる。いや、そもそも私に責める資格があろうか。ラルダを見捨てて逃げ、閣下をここまで苦しめた私に……」
 グロスは暗澹たる面持ちでつぶやいた。
「閣下にとって、リアはラルダやきゃつのような縁の深き者ではない。ラルダのような凄まじい力も持ってはおるまい。解呪するには組し易い相手のはず。それだけがせめてもの救いか……」

 もはや言葉もなく向き合う二人の姿を、深まる宵闇がしだいに閉ざしていった。




第3部:燃え上がる大地 前半 →
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