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ふしじろ もひと
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『封魔の城塞アルデガン』第2部:洞窟の戦い 後半

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「閣下!」アラードは駆け寄り、助け起こそうとゴルツの正面に回りこんだ。だが、差し伸べようとした手が凍りついた。
 鬼の顔だった。緑の双眸は憤怒に炯炯と燃え、髪も髭もおどろに振り乱されていた。
 ゴルツとの戦いに臨んだラルダの鬼相そのものだった。まるで娘の怨念が解呪した父に取り憑いたかのようだった。
「……無念じゃ、もはや限界。リアを追うことはできぬ」
 ゴルツは呻いた。
「まだあれの犠牲者はおらぬ。居場所を探るすべもない。もはやこれまで……っ」

 立ち尽くすアラードに、やがて大司教が命じた。
「手を取れアラード。アルデガンへ転移する」
 ゴルツが呪文を唱えると、二人の姿は洞窟からかき消えた。
 火口からまた紅蓮の炎が吹き上がり、誰もいなくなった巨大な空洞を乱舞した。


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 リアが意識を取り戻したのは、全てが終わったあとだった。

あの瞬間、リアは支えの腕輪を握り絞めてラルダの凄まじい思念に抗がおうとした。
 しかし吸血鬼の理に逆らい自分を転化させた相手に抗がうのがそもそも無理な上に、ラルダの桁違いの意志力が相手では勝負にならなかった。最初の一撃でリアは昏倒したのだった。
 リアは支えの腕輪に目を落とした。いまだ輝きを失わない腕輪に、しかし亀裂が入っていた。これがなければ一撃で自分は魂を砕かれ、空ろな生ける屍としてさまよい歩いていたはずだった。いや、もう少し攻撃が続いていれば腕輪も砕け散り、同じ結果になっていたに違いない。
 だが、そのラルダの存在がぽっかりと消失していた。
 リアが意識をどこまで伸ばしても、洞窟の中にはラルダも、溶岩に焼かれたおぞましい男も、その他の吸血鬼もまったく存在が感じ取れなかった。
 彼女は悟った。洞窟に残った吸血鬼は自分だけなのだと。

 自分がどうすればいいのかリアは途方にくれた。洞窟の探索はなし遂げられ、アルデガンを襲った吸血鬼は滅んだ。だが自分がこんな形で取り残されることなど想像もしていなかった。探索の途中で自分は命を落とすものと思い詰めていたのだったから。

 まさか心を残したまま転化してしまうなんて……。

 もうアルデガンに戻るわけにはいかない。
 もし自分が戻ろうとするときは、それは……。

 彼女は脅えた。自分の想像のおぞましさに。
「おまえだっていずれ人間の血をむさぼるしかないくせに!」
 いなくなったラルダの残した呪詛が、それゆえそれ自体の意味を突きつけてきた。思わず呻き、耳を押さえた。
 やがてリアは立ち上がり、アルデガンから少しでも離れるべくよろめきつつも坂を下り始めた。洞窟の奥へ、地の底へと。この世の外へ通じる道がどこかにあるのを、溶岩でさえ焼き滅ぼせぬ呪われたこの身を無に帰せる場を、ただ一心に願いつつ。