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ふしじろ もひと
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『封魔の城塞アルデガン』第2部:洞窟の戦い 後半

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「……是非もなし」
 ゴルツが呟くと、やおら顔を上げた。縮み曲がったようだった背筋が固く伸ばされるのをアラードは見た。
「わしは確かにそなたを見捨てた。アルデガンの長としてそなたの救出を禁じた。そのせいでそなたはこれほどの地獄に身を置き苦悶した。どれほど恨まれ責められても仕方がない。我が身一つのことならば地獄へ落とされてもかまわぬ」
 やつれた手が錫杖を掲げた。
「だが、それゆえアルデガンに、いや、全ての人間に仇をなすとなれば話は別じゃ。己が身を焼く地獄へ他の者をもろともに引き込むというならば、そなたは溶岩に落ちた化物以上におぞましい悪鬼に堕ちたのだぞ!」
 錫杖が目もくらむような白い光に燦然と輝いた。
「アルデガンの長として、神に仕える者として、わしはそなたを滅せねばならぬ!」
 ゴルツは解呪の印を結び、呪文を唱えた。
「神の意思とやらを試そうというのね。望むところよ!」
 鬼相を剥き出してラルダが叫んだ。全身から吹き出すどす黒い妖気にあおられてねじれた黒髪が逆立った!

 アラードの目の前で、途方もない力と力が真正面からぶつかりあった。その衝撃は目に見えるかとまがうほどだった。
 ゴルツもラルダも身動き一つしなかった。いや、できるはずがなかった。すべての力が精神の嵐となって、互いの存在を、魂をじかに削りあっているのがアラードにさえわかった。思わず彼は膝をつき、己の剣でからくも身を支えた。
 ゴルツが不利だとアラードは直感した。精神の力は全く互角、これはおのずと長期戦になる。ならばあとは戦いを支える肉体がどれだけの時間に耐えられるか。ゴルツはしょせん老境を迎えた人間、ラルダは不滅の肉体を持つ吸血鬼。
 勝てるはずがない! アラードは焦った。焦ることしかできぬ身で。

 ゴルツは戦慄していた。いままで吸血鬼を解呪したことは何度かあったが、ラルダの力はまったく桁違いだった。これまでの相手は死んで転化した者ばかりだった。人間の魂のまま転化して、憎悪と怨念を支えに二十年も抵抗を続けてきた意思の力がかくも凄まじいものだったとは!
 長期戦になればとうてい勝てぬ。なにがなんでもここで滅ぼさねば! 焦りを無理やり押さえつけ、ゴルツはひたすら念をこらした。

 だが、ラルダもまた焦っていた。時間がない! あいつが這い上がってきてしまう……。
 たかが人間、それも年寄りと侮ったのが間違いだった。アルデガン最高の術者である父の力はやはり破格のものだった。
 なんとかしなければ! でも、どうすれば……。

 そのときラルダは思い出した。この洞窟には自分が牙にかけたあの小娘がいる!
 いっそう激しさを増す精神の嵐をしのぎつつ、ラルダは思念で呼ばわった。牙を受けた者に向け、我が支配に従えと!