誠に遺憾
「亡者は、<天上界>か<地下界>に受け入れられないと、転生は出来ません」
立てた右手の人差し指を、<冥忌士>が唇に当てる。
「何せ<中間界>とは あくまでの亡者の仮の身の置き場に過ぎませんから。
ところが<天上界>には、<至高の存在>の眼鏡に適った、極少数の者しか受け入れられません。
それでは 多くの亡者が、<転生の救い>を得る事が叶わない。
その救済策として、<地下界>では、希望するもの全てを受け入れているのです」
今度は 人差し指の先で、鼻の頭の先を ゆっくりと叩き始めた。
「人界では<地下界>とは、堕落した人間が堕ちる場所とされている様ですが、それは正しくありません。
来るものを拒まないので、結果的に<好ましくない>人物が含まれてしまうだけの事なのですよ」
鼻の頭を叩いていた指が止まる。
「と言った訳で、常に<地下界>は人口が増加傾向にあり 色々と苦労しておりまして…貴殿の様な優秀な人材を勧誘し、能力を生かして頂いている次第です」
<冥忌士>が自分の懐に手を入れ、何かを取り出す。
「親書です」
受け取った封書の表に記されたいるのは、聖人として祀られている、10年程前に他界した我が師の名前だった。
「イトパマルロ殿には、辣腕を振るって頂いております」
中には見知った筆跡で、師が<地下界>で厚遇を受け、治世に参加している旨が記されている。
私の視線は、書面から<冥忌士>に移動した。
「どういった経緯で、イトパマルロ様は<地下界>に?」
「貴公と同じ様な 摩訶不思議な理屈で<天上界>への受け入れを拒否され、<中間界>に向かう羽目になった所を、小生が勧誘した次第です」
思案していた私に <冥忌士>が尋ねる。
「で、如何されます? シトペモロン殿。」
「─ 私も<地下界>で 世話になろう」
破顔した<冥忌士>は、私に最敬礼した。
「貴公が この選択を後悔する日は訪れないものと 小生は愚考いたします」