『封魔の城塞アルデガン』第2部:洞窟の戦い 前半
思わず叫んだアラードだったが、あとの言葉が続かなかった。それでも華奢な少女は我に返ったようだった。
「すみません。覚悟はしていたつもりだったんです。助かるはずなんてないと……」
リアは立ち上がった。濡れた瞳に悲愴な決意が満ちていた。
「これで覚悟がつきました。私は地上へは戻りません。もう帰ってはいけないんです! この洞窟こそが死に場所です!」
二人を見つめる空色の目に、あの激しい光が宿った。
「決してこの洞窟から出してはいけません。私も私を襲ったものも! どちらも滅びなければならないんです! 最後まで戦って死にます。もう誰もこんな目にあわせないために!」
蒼ざめた顔が真正面からゴルツに向けられた。
「いよいよの時は、私の魂をお守りください」
「もとよりそれがわしの務めじゃ、その高き魂を守ることが」
アルデガンの大司教が少女の前に膝まづき、手を取った。
「その身の滅ぶ時、必ずそなたの魂を神の御元へ還す!」
ゴルツの誓いにリアがうなづいた。
---その高き魂こそ守られなければならない---
アラードの心に、その言葉がこだました。
ガモフのように空っぽのまま甦るリアの姿が、牙を剥いて迫る顔の冒涜的な幻影が彼を脅かした。
失わせてなるものか、魂を。たとえどんなことをしてでも!
アラードは考えもしなかった、己の思いがリアやゴルツと僅かながらもずれ始めているなどとは。
作品名:『封魔の城塞アルデガン』第2部:洞窟の戦い 前半 作家名:ふしじろ もひと