北へふたり旅 1話~5話
「公式費用とは別に、プラスの費用がかかる。
実習生の話によれば来日前の日本語教育費や寮費、ブローカーへの紹介料、
制服代やスーツケース代(指定のものを購入させられる)、
組合への謝礼や、送り出し機関の職員に対する賄賂、保証金など、
さまざまな名目の上乗せがあるという。
あげく。出国する前の借金が、100万円をこえることになる」
「出国するまえの借金が100万円。大金だろうベトナムじゃ」
「大金です。かれらの平均月収は3万円。
しかし月3万の収入じゃ、ぎりぎりの生活しかできないという。
でも実態はもっと酷い。
ホーチミン市での接客のアルバイトは、時給90円。
一ヶ月ははたらいても、1万5千円にしかならない。
これではいくら働いてもベトナムの若者は、貧困から、
絶対に抜け出すことができない」
「それでかれらは日本へやってくるのか。
一攫千金を夢見て、多額の借金をしてでも日本へやってくるんだな」
「そうです。かれらの目的はただひとつ。
ベトナムで百姓をするためじゃない。ただひたすら金を貯めることです。
それだけのため、かれらは日本へ出稼ぎにやってくる」
「実際のところかれらは日本へきてどの程度、稼げるの?」
「実習生の大半は『日本で250万円~300万円稼げる』と思っている。
これ自体は間違いじゃない。
ベトナムの送り出し機関も、このくらいは稼げるとハッキリ言っている。
ただし。稼げるはイコール利益というわけじゃない。
ここを誤解してはいけない」
「そうだね。すべてが使えるわけじゃないからね」
「そういうことです。時給834円として、8時間、22日働くと146,784円。
残業は25%増しで、2時間づつ22日働くと、45,870円。
ということで月の収入が、192,654円になる」
「そこそこの収入のように思えるけど?」
「はい。全部、本人の手元に残ればそれなりの収入になります。
でも実は、落とし穴があるんです」
(5)へつづく
作品名:北へふたり旅 1話~5話 作家名:落合順平