小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

無彩色の空

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 マスターはこのコロニーに来る前にはB星とC星に住んでいたこともあるそうで、俺が知らないことを色々知っている、特にB星には地球から移住した人間もそこそこいたそうで、地球の話も聞けるのだ。
 もっとも、おしゃべりなマスターではないから、こちらが聴いたことに答えてくれる程度で、自分からペラペラしゃべることはないのだが……。

「マスター、俺さ、毎朝同じ環境映像で目を覚ますんだよ」
 俺も自分のことをペラペラしゃべるようなタチではないが、その日は少し酔っていたようだ。
「へぇ、どんな映像だい?」
「空が青いんだ、それと空と同じくらい広い水がある、ああいうのを海って言うんだろ?」
「とは限らないな、湖って言うのもある、水面は穏やかだったか?」
「いや、うねったり時折白く砕けたりしてる」
「ああ、それならそれは海で間違いないだろうな、そう言うのを波って言うんだそうだよ」
「マスターは海を見たことがあるのかい?」
「いや、話に聴いただけだ」
「地球からの移住者に?」
「ああ、相当な年配でね、ずいぶん懐かしがっていたっけ……」
「じゃあ、あの映像は地球のものなのかな?」
「多分な……もっとも俺が見ても『そうだ』とは決めつけられないだろうな、話に聴いてるだけだから」
「そうか……そうだよな」
「毎朝同じ映像で飽きないのかい?」
「それが不思議と全然飽きないんだ、青い空と同じように青い……多分海だな、それを眺めていると癒されるんだよ、ゆったりした気分になるのに、同時に活力も沸いて来るんだ……あんなところで一日のんびりと寝転がっていたいものだよ、何もしないでただ空と海をぼんやり眺めて、波の音を聴いてさ……」
「わかる気がするよ、心の凝りがほぐされそうだな」
「そう、それだよ、俺はあの映像で心をマッサージしてもらうんだ」
「気持ちが良いだろうな」
「ああ、すごくね……そろそろ帰るよ、なんだかまたあの映像に浸りたくなった」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 男が店を出ると、カウンターの隅で飲んでいた老人がマスターに声をかけた。
「あいつ……地球を知らないらしいな、クローンか?」
「ああ、この星で生まれた建設作業用のクローンだよ、この星で灰色の空と地表を見ながら建設作業を続けて一生を終えることになるんだろうな」
「それでも青い空と青い海には癒されるって言ってたな……クローンにも記憶は受け継がれて行くんだな」
「DNAが憶えているのかもしれないな……あいつの気持ちはわかるよ、俺も青い空と海をもう一度見たいものだと思うからな」
「俺もだ……それは叶わない夢だがな」
「ああ、俺もあんたも地球を追われた身だからな」
「終身流刑でな……」
「俺もあんたもいい加減もう歳だ、この星の灰色の空の下で一生を終えることになるんだろうな」
「まあ、悪行の報いだから仕方がないさ、でも死ぬ前にもう一度地球を、あの空と海を見たいものだが……」
「ああ、それは仕方ないな……地球の思い出を持っているだけでも、あいつらみたいなクローンより幸せなのかもしれないな……」
作品名:無彩色の空 作家名:ST